ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Auster の “Report from the Interior” (1)

 きのう Paul Auster の新著 "Report from the Interior" を読了したが、レビューを書く時間は取れなかった。メモを読みかえしながらがんばってみよう。

[☆☆☆★★]『冬の日誌』につづくポール・オースターの自伝第二弾。前著同様、自分を you と呼んで客観視しながら、こんどは幼い少年時代から年代順に「内面の地理・心の風景を探索」しようというものだ。といっても、序盤はことさら特別な話題は皆無。読んだ本や見たテレビ番組、熱中した野球のことなど、オースターならずとも、どこの国のどの少年でも大同小異のような体験談である。それと朝鮮戦争ユダヤ人の社会的地位など、1950年代当時の世相を重ねあわせている点がうまい。中盤、十代になって観たふたつの映画の粗筋がえんえんと紹介される。やや引っぱりすぎの感もあるが、それだけ衝撃を受けたということだろう。オースター文学における人生の不条理というテーマは、このとき芽生えたのかもしれない。本書の白眉は第三部〈タイムカプセル〉である。前妻に宛てた大学時代の手紙がまとめて送りかえされ、回想をまじえた一種の書簡体小説となっている。映画『いちご白書』でも有名なコロンビア大学の学生ストライキに参加。ヴェトナム戦争を背景に、従軍か服役か逃亡か、という選択をしいられた当時の若者の苦悩が描かれる。しかしなにより興味ぶかいのは、おなじみの貧乏生活のなか、詩の翻訳やアルバイトなどで糊口をしのぎながら、のちの作品へとつながる創作活動に従事している姿だ。彼にとって最大の問題は「自己の問題」であり、その解決は「内部からはじまる」という宣言は、オースターの本質を要約したものといえる。最後、アパート探しに奔走するエピソードが秀逸。巻末の〈アルバム〉に本書の話題にまつわる写真を収録し、全篇を駆け足でふりかえるという工夫も洒落ている。