ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Invisible Bridge”雑感(1)

 今年のオレンジ賞候補作、Julie Orringer の "The Invisible Bridge" に取りかかった。これは去る2月、彼女の旧作短編集 "How to Breathe Underwater" を読んだときから気になっていた本で、ぼくは原則的に、1年以内に同じ作家の作品を読まないことにしているのだが、来週にはもうショートリストが発表されるので今が絶好のタイミングである。
 今度も序盤だけで評価を下して、またまた赤っ恥をかくことになるかもしれないが、読み違いを気にしていたらこんな駄文は綴れない。そこでずばり言うと、本書が栄冠に輝く見込みはかなり薄いだろう。理由は、面白すぎるからである。
 先日、「女流作家の救済賞」とクサしたオレンジ賞だが、07年の "Half of a Yellow Sun" をはじめ、3日前に読みおえたばかりの "The Lacuna" など、受賞作はテーマ追求型のシリアスな作品が大半を占める。その点、この "The Invisible Bridge" は今のところ、どちらかと言うとストーリー重視型の文芸エンタメ路線であり、それが「シリアスな」オレンジ賞には不利に働くのでは、と思えるのだ。
 ただし、面白いことは無類に面白い。ぼくが注文した今年の1月下旬から現在にいたるまでアメリカでベストセラーになっているのも当然で、いっそ仕事を休んで先へ読み進みたいくらいだが、いかんせん宮仕えの男はつらいよ
 ジャンルとしては "The Lacuna" と同じく歴史小説。時代は第二次大戦前で、20代の青年が主人公という点でも同じだが、こちらのほうは、より正確には歴史ロマンスというおもむきだ。青年はユダヤ系のハンガリー人で、建築を学ぶためにブダペストからパリへ留学。当地でもユダヤ人排斥の動きがあり、ヒトラーがズデーテンラントをドイツに併合するなど戦争の暗雲が垂れこめている。そうした時代背景のもと、青年は9歳年上の女性と恋に落ちるが、その女性にはどうやら忌まわしい過去があるらしい。
 …と粗筋を書いただけで、何だ、お定まりのパターンじゃないか、と自分でも思うのだが、これがめっちゃくちゃオモロー!(かなり古い)。駄文はこれくらいにして、さっそく続きに取りかかろう。