ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Julie Orringer の “The Invisible Bridge”(1)

 今年のオレンジ賞候補作、Julie Orringer の "The Invisible Bridge" をやっと読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

The Invisible Bridge (Vintage Contemporaries)

The Invisible Bridge (Vintage Contemporaries)

The Invisible Bridge

The Invisible Bridge

[☆☆☆☆] 大ボリュームにふさわしい感動的な歴史巨編、傑作大河小説。冒頭からぐんぐん引きこまれ、何度も胸を締めつけられそうになりながら読み進み、深い余韻にひたりつつ本を閉じた。主題は家族の愛と絆である。その象徴が「目に見えない橋」というタイトルで、時間と空間、さらには生死の境を超えて結びついた家族の絆を指している。主人公はハンガリーユダヤ人の青年で、第二次大戦前夜から大戦中、そしてハンガリー動乱にいたるまで過酷な運命に翻弄されつづけたユダヤ人の家族の歴史が綴られる。パリに留学した青年が同じくユダヤ人の年上の女性と恋に落ちるくだりは、年齢差や家族の反対、恋敵の存在など数々の障害が立ちふさがり、まさしくメロドラマそのものだ。が、次第に戦争の暗雲が垂れこめ、やがて学生ビザの切れた青年がハンガリーに帰国したときから物語の様相は急変。酷寒のカルパチアやウクライナでの強制労働、ドイツ軍とソ連軍の攻防、ブダペスト空襲など、それぞれの局面で青年とその家族は文字どおり生死の境をさまようようになる。劣悪な環境や、人間の醜悪な利己心、非情さ、ホロコーストの恐怖など、定番の題材ではあるがリアルな描写に圧倒され、極限状況のもとで示される家族愛や同胞愛に胸を打たれる。戦況や政治情勢とともに二転三転、いや四転五転する展開も加速的に先を読みたくなるゆえんのひとつである。難易度の高い語彙も散見されるが、総じて読みやすい英語だと思う。