ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Beryl Bainbridge の “The Dressmaker”(2)

 Beryl Bainbridge が昨年7月に物故したのを知ったのは、既報のとおり今年2月のこと。大変遅ればせながら、ささやかな追悼記事を書いた次第だが、この「ブッカー賞悲運の女王」の落選候補作のうち、4冊も読みのこしているのがずっと気になっていた。
 そこで今回、彼女の足跡をたどるべく、第1弾として最初の落選作に取り組んでみたわけだが、とても面白かった! ある場面の途中からいきなり物語が始まり、各人物が何の説明もなく登場。ただ、話術はすばらしいので、よくわからないまま会話なり小さな事件なりを楽しんでいるうちに、「人物関係が次第に見えて」くる。そういう人物の出し入れはもちろん、きめ細かい室内風景の描写など、いかにも伝統的な英国小説らしい味わいでとても懐かしかった。
 もちろん、ケチをつけようと思えばつけられなくはない。ここには人生のどんな深い問題が描かれているのだろうか、というのもそのひとつだが、「衝撃の結末に愕然となり」、そういう不満も見事に吹っ飛んでしまう。それどころか、最初読んだときはまったく気がつかなかった冒頭の仕掛けにも、読みかえせば読みかえすほど感心する。最後まで再読すれば、おそらく見落としていた伏線をいくつも発見できることだろう。つまり、これは大半、コップの中の嵐を描いた家庭小説のようでありながら、じつは「きわめて巧妙に仕組まれた一種のミステリ」なのである。
 そういう作者の意図を無視して、「ここには人生のどんな深い問題が…」などとエラソーに文句をつけるのは筋違いもはなはだしい。そんなことを言うからお前はダメなんだ、と某先生にはお叱りを受けそうだが、まあまあ、野暮なことは言わずに至芸を楽しみなさい、と亡き恩師ならおっしゃることだろう。
 ともあれ、ぼくは原則として、同じ作家の作品を1年以内には読まない主義なのだが、例外のない原則はない。あと3冊の落選作もなるべく早いうちに読むことにしよう。