ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Every Man for Himself” 雑感

 1996年のブッカー賞最終候補作、Beryl Bainbridge の “Every Man for Himself” に取りかかった。彼女の作品を読むのは今年だけで3冊目、通算4冊目である。

 去る7月、久しぶりに同賞のHPを覗いてみて初めて気がついたのだが、昨年物故したこの「ブッカー賞悲運の女王」の功績を讃え、今年になって Man Booker Best of Beryl と題し、彼女の落選作5冊の人気投票を一般読者に募ったようだ。その結果、第1位に選ばれたのは “Master Georgie” だが、同書は最後の落選作である。ぼくは今年、古い順に読んできたので、少し迷った末、本書から先に片づけることにした。

 読みはじめてすぐにわかったのだが、これ、あのタイタニック号沈没の物語ですね。避難シーンを描いたプロローグのあと、その1週間前からカウントダウン形式で、ある青年の乗客を中心に話が進んでいる。

 といっても、今のところサスペンスはみじんもない。ときおり、迫り来る悲劇を踏まえた伏線らしきものが張られている程度で、あとはもっぱら登場人物同士のふれあいだけだ。青年の今までの人生が断片的に語られ、船に乗り合わせた友人知人、仕事関係者、初めて出会った乗客、さては乗員にいたるまで次々に紹介される。  

 その手馴れた筆運びはまさに職人芸で、適度にユーモアをまじえながら人物の交流だけでストーリーを作っていく手法は、展開の早い現代の作品ではもうあまり見かけることがなくなった、いかにも伝統的な英国小説らしいものだ。

 というわけで、これはボチボチ楽しんでいます。さて、悲劇まで一体どんなふうに持って行くのでしょうか。