ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

追悼 Beryl Bainbridge

 今日も少しだけ "Super Sad True Love Story" を読み進んだが、べつに新たな感想を付け加えるほどではないし、だんだんネタばらしになりつつあるので小休止。代わりに Beryl Bainbridge のことを書こう。
 まことにお恥ずかしい次第だが、最近になってようやく彼女の訃報を知った。イギリスのサイトを覗いてみると、このところ、なぜか旧作のペイパーバックがフィクションのトップページに並んでいる。最初は気にもとめなかったが、やがて不思議に思って調べてみると、なんと昨年7月に他界。享年77歳とのこと。それがどうして今ごろ旧作「特集」となったのかはわからないが、何はともあれ、彼女の死と関係があることは間違いないだろう。
 ぼくは彼女の作品は、以下に昔のレビューを再録した "An Awfully Big Adventure" しか読んだことがない。あとは未読の "A Quiet Life" を持っているだけで、決してファンとは言えない。それでも彼女のことを憶えていたのは、彼女が「ブッカー賞最終候補作の悲運の女王」だからだ。過去、最多回数である5回もショートリストにノミネートされながら、ついに一度も受賞しないまま物故してしまった。
 あわてて未読の候補作をぜんぶ注文したところだが、何年か前に読んだ "An Awfully...." をふりかえると、とにかく「渋いがうまい作家」という印象がよみがえってくる。最近のブッカー賞候補作を読んでいると、そういう作家がだんだん減ってきているのではという気がするだけに、彼女の訃報にちょっと寂しい思いをした。大変遅くなってしまったが、以下に候補作を5冊とも掲げ、東洋の島国から冥福を祈りたい。
"An Awfully Big Adventure" (90)

An Awfully Big Adventure

An Awfully Big Adventure

[☆☆☆★★★] 大向こうをうならせる傑作ではないが、ウェルメイドという形容がぴったりの佳品。第二次大戦後まもないリヴァプールのレパートリー劇場を舞台に、お色気たっぷりの、しかしちょっとオフビートな16歳の娘が、これまた少々ヘンテコな芝居関係者と接するうちに色恋沙汰その他、さまざまな事件に巻きこまれる。登場人物はかなり多いが、ウィットに富んだ会話、ユーモアあふれる描写をベースに、短いカットを小気味よくつなぐことで、それぞれの人物像が鮮やかに浮かびあがり、その面白おかしい人間模様、人生模様が活写される。事件の性質上、総じてブラック気味のコメディーで、落語の名人芸にも通じるその語り口はやはり、英国小説の長い伝統に根ざしたものと言うべきだろう。過去に何度もブッカー賞にノミネートされながら、まだ一度も栄冠に輝いたためしのないベインブリッジだが、小説技術という点ではもちろん巨匠の域に達している。それなのに、たとえば本書が90年に受賞を逃したのはなぜなのか。対抗馬の出来は別として、評者なりに推測はつくのだが、あえて論評しない。その理由を考えながら至芸を楽しむのも一興だろう。英語としては、上級のイディオム表現が頻出するものの、決して難解というほどではない。
"The Dressmaker" (73)
The Dressmaker: Shortlisted for the Booker Prize, 1973

The Dressmaker: Shortlisted for the Booker Prize, 1973

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"The Bottle Factory Outing" (74)
The Bottle Factory Outing: Shortlisted for the Booker Prize, 1974

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"Every Man for Himself" (96)
Every Man For Himself: Shortlisted for the Booker Prize, 1996

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"Master Georgie" (98)
Master Georgie: Shortlisted for the Booker Prize, 1998

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