ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“A Visit from the Goon Squad”雑感

 大変遅ればせながら、今年の全米批評家(書評家)協会賞受賞作、Jennifer Egan の "A Visit from the Goon Squad" に取りかかった。先月の受賞直後に注文したのに、なぜか今まで配本がずれ込んでいた。ペイパーバック・リーダーにはままあることで、え、今ごろ読みだしたのかい、とみんなに笑われそうだ(故植草甚一風の語り口ですな)。
 今日は職場の新歓ということであまり進まなかったが、それでもようやく中盤に差しかかってきた。それゆえ、いつものように最初の独断と偏見を述べておくと、今のところ、少なくともここ数年の受賞作の水準から期待したほど面白くない。決して悪くはないのだが、たとえば去年の同系列の秀作、Tom Rachman の "The Imperfectionists" と較べてもかなり見劣りがする。
 同系列というのは、本書もどうやら輪舞形式、つまり主人公がリレー方式で次々に交代する体裁の長編らしいからだ。実質的に短編集といってもいいくらいなのだが、"The Imperfectionists" のほうは短編集のようでいて、じつは各エピソードを結びつける強烈な求心力も認められ、その意味で歴とした長編であった。
 ところが本書の場合、今まで読んだ範囲にかんするかぎり、そういう求心力がどうも見当たらないようなのだ。各「短編」はまずまず面白い。盗癖のある女がホテルのトイレで置き引きをする第1話など、思わず引きこまれてしまう。その女がアシスタントをつとめるレコード会社のプロデューサーが不能になった第2話も、まあいい。ところが、そのプロデューサーの青春時代を描いた第3話あたりになると、当初から感じていた本書への不満が増大してくる。何だ、どれも尻切れトンボで脈絡がないではないか。
 ただ、これを短編集と割り切って読むと、なるほどね、と感心するエピソードもある。プロデューサーの昔の友人が旧交を温めにやって来る第6話や、プロデューサーの浮気を妻が発見する第7話など、「泣かせどころ」がピシッと決まっていて鮮やかだ。さて中盤以降、どうなるんでしょう。