Kevin Barry の "City of Bohane" に取りかかった。Barry はアイルランドの新人作家で、2007年に "There Are Little Kingdoms" という短編集で Rooney Prize を受賞。本書は彼の処女長編である。
…などと知ったかぶりで書いたが、これすべて著者紹介の丸写し。どうしてこの未知の作家に食指が動いたかというと、本書が Anne Enright の "The Forgotten Waltz" 同様、今年のブッカー賞ロングリストの候補作として取りざたされており、しかも、すでにペイパーバック化されているのを発見したからだ。Enright のほうは星3つくらいの出来だったが、こちらは現在、アマゾンUKで(レビュー数こそ少ないものの)星4つ半。Jonathan Cape 社が強力にプッシュするのでは、という記事も見かけた。
まだ第1部しか読んでいないが、これはなかなかいい! 舞台はアイルランドの架空の港町で、どうやらギャングの抗争が読みどころの一つらしい。が、筋立てもさることながら、その描き方がじつに新鮮だ。
まず文体に特色がある。英語は相当にむずかしく、とくに会話部分が大変だ。アイルランドの日常的な口語なのか、方言なのか、スラングなのか、不勉強のぼくには判別しがたいが、とにかく「リーダーズ」あたりでもどうかな、と思える単語が頻出。面倒くさいので辞書も引かず、おおよその意味を推測しながら、ああやっぱり、とか、何だそうだったのか、といった調子で読みすすんでいる。今ようやく馴れてきたところだ。
馴れてくると、この文体の面白さがよくわかる。街を支配する一方のボスと、その妻や母親、25年ぶりに街に帰ってきた妻の元カレで昔のボスなどが主な登場人物だが、上記の口語で綴られるギャングの世界の物語が異様な熱気に満ちている。言葉と言葉のぶつかり合い、としか言いようのない会話。地の文もエネルギッシュで、猥雑にして美しい街の風景、血なまぐさいハードアクション、凄惨な犯罪現場、はたまた、ボスがちらつかせる不安や、元カレの感傷など、どの部分をとってもすこぶる生々しい。
これは、ひょっとするとひょっとするかも、という気がしてきた。