ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Edna O'Brien の “The Country Girls Trilogy”(2)

 先週注文していた関根敏行トリオの廃盤『ストロード・ロード』がきょう到着。長らく入手困難だったが、最近出品に気がつきゲットした。期待どおり超ゴキゲン! 

ストロード・ロード

ストロード・ロード

 

 さて前々回、Edna O'Brien は初読の作家と書いたが、勘ちがいだった。2011年のフランク・オコナー国際短編賞受賞作 "Saints and Sinners" を読み、そのレビューも書いていた。 

 前後の記事も読み返してみたが、評価は☆☆☆★★としたものの、それほど印象ぶかい作品ではなかったようだ。そのため、すっかり記憶から抜け落ちてしまったものと思われる。
 しかもアホなことに、表題作の刊行年(第1巻1960)からして、Edna O'Brien はすでに物故したとばかり思い込んでいた。Wiki によると、おん年91歳。健在である。失礼しました。
 それはともかく、上の短編集がきっかけでどんな作家だろうと興味をもち、今回読んだ "The Country Girls Trilogy" が代表作らしいとわかり注文したようだ。それが結局、積ん読になってしまったらしい。
 以下、レビューで触れなかった点を補足しておこう。第1巻 "The Country Girls" は前半が面白かった。純情可憐な田舎娘 Kate と、高慢で意地悪な友人 Baba の絡みあいは、どこかで似たような話を読んだことがある気もするが、刊行年を考えると、本書が鼻祖のひとつかも。
 第2巻は活劇篇。手に汗握るほどではないが、ちょっとしたアクション・シーンがあり楽しめた。おかげで、幸福の絶頂から奈落の底へ、という筋書きも定番ながら気にならなかった。レビューで要約・引用したのはつぎのくだり。"We all leave one another. We die, we change ― it's mostly change ― we outgrow our best friends; but even if I do leave you, I will have passed on to you something of myself; you will be a different person because of knowing me; it's inescapable ... " he said. It's quite true.(pp.376-377)この he は Kate が恋した妻子ある男性である。
 第3巻は、3人称視点で Kate 、1人称視点で Baba のそれぞれ結婚生活を描いたもの。こうしたスタイルの変化は「無垢と経験」という対比と関係があるように思われる。無垢な Kate を 経験豊かな Baba が客観的にとらえているからだ。 
 本編の20年後に書かれたエピローグでは Baba が主役。文体も変化し、口語俗語の多用で猥雑な印象を与えるが、よく読むと Kate へのオマージュになっている。
 総じて文学史にのこるほどの名作ではなく、本書をもって Edna O'Brien を大家とするわけには行かない。が、のちに上のように権威ある文学賞を受賞したせいか、いまではアイルランドを代表する作家のひとりに数えられるようだ。
 なお、書棚を見わたしたところ、"Wild Decembers"(1999)という旧作を発見。アイルランドでは2009年にテレビドラマ化されたらしく、話題作とあって買い求めたもののようだが未読。これからも当分、手に取ることはないかもしれない。