ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Dave Eggers の “What Is the What”(2)

 積ん読の山の中で、この本は前から気になっていた。前回アップしたのは Penguin 版だが、実際に読んだのは Vintage 版。あるとき、アマゾンUSでいろんな作品を検索するたびに、どういうわけかこの Vintage 版の表紙が目につくようになった。
 なかなかのコワモテである。むずかしそうなので放っておいたが、このほどやっと〈ジャケ買いシリーズ〉の一環で着手。よく見ると、Finalist / National Book Critics Award for Fiction とのこと。知りませんでした。〈恥ずかしながら未読シリーズ〉でもあったのですね。
 Dave Eggers という名前にもなんとなく記憶があった。そのはずだ。忘れていたが、2012年の全米図書賞最終候補作、"Hologram for the King" のレビューを書いているではないか。以下に再録した拙文を読んでいるうちに、どんな話か思い出した。かなり面白かった。映画化もされていたのですね。

A Hologram for the King (Pb a Om)

A Hologram for the King (Pb a Om)

[☆☆☆★★★] 「俺はだれだ」「私はなぜここにいるのか」― だれでも一度は駆られる疑問かもしれないが、本書はこの定番の問題をきわめて現代的に、かつコミカルに扱った秀作である。昔は羽振りがよかったものの、いまや自己破産寸前の経営コンサルタント・アランが起死回生をかけ、サウジ国王にホログラムによる会議システムを採用してもらおうと、現地で建設中の大都市に乗り込む。が、国王はいっこうに姿を見せず、プレゼンテーションは延期につぐ延期。そもそも都市建設そのものが進んでいない。このカフカ的状況が、こっけいなエピソードや爆笑物のジョークもまじえて描かれると同時に、アラン自身の失敗したビジネスや破綻した結婚生活、健康への不安、一人娘への思いなどがフラッシュバック。そこから孤独な現代人の実存の不安がうかびあがる。この笑いとシリアスな問題の配合が絶妙で、どんどん先を読みたくなる。濡れ場もあって楽しんでいるうちに、ふと流れ込んでくる人生の悲哀にしんみり。虚無の深淵に頭をかかえこむ。人生は不条理で、かつ、おかしい。おかしいから不条理なのか、不条理だからおかしいのか。そんなラチもないことを考えてしまった。
 "What Is the What" に話を戻そう。知らなかったが、これは2006年の全米批評家協会賞の最終候補作(最初、2007年と勘違いしていました)。この年の受賞作は、忘れていたが、ブッカー賞とのダブル受賞に輝いた Kiran Desai の "The Inheritance of Loss"(☆☆☆☆★)。既読のほかの候補作は、オレンジ賞(現ベイリーズ賞)受賞作、Chimamanda Ngozi Adichie の "Half of a Yellow Sun"(☆☆☆☆★)。ピューリッツァー賞受賞作、Cormac McCarthy の "The Road"(☆☆☆★★)。いやはや、錚々たる顔ぶれである。未読の候補作は Richard Ford の "The Lay of the Land" だけ。この年はぼくも頑張ってたんですな。
 さて、この "What Is the What" も☆☆☆☆★。大豊作の年とあって、批評家協会賞の選考委員諸氏は、さぞうれしい悲鳴を上げたことでしょうね。ぼくがいま選ぶとしても悩んでしまう。当時は Kiran Desai で順当だと思ったような記憶もあるが、いまなら僅差で Adichie かな。ついで Eggers か Desai か。
 "What Is the What" についてはもっと書きたいが、きょうはこのへんで。