ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Santiago Roncagliolo の “Red April” (1)

 昨年のインディペンデント紙外国小説最優秀作品賞(Independent Foreign Fiction Prize)の受賞作、Santiago Roncagliolo の "Red April" を読みおえた。これは一昨年、ガーディアン紙が選んだ年間ベスト小説のひとつでもある。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 人間の重い現実を容赦なく暴きだした凄絶なポリティカル・スリラー。2000年、フジモリ大統領三選の年、ペルー南部の都市アヤクーチョで連続殺人事件が発生。正義感に燃える地方検事補フェリックスが捜査に乗りだすが、肝心の警察はさっぱり動こうとしない。市の実権を握る軍司令官に報告しながら内偵を進めるうち、1980年代に起きたゲリラ戦争が事件の背景にあることがしだいに明らかになる。私生活では亡き母の思い出にふけり、一方レストランのウェイトレスと親しくなるフェリックス。当初は主筋と無関係に思えたそんな副筋もやがて事件の展開に組みこまれ、ついには彼自身……。終幕は二転三転、激しいアクションの連続で息をつくまもない。そこにやがて浮かびあがるゲリラ戦争、そして人間の現実はあまりに凄惨で言葉をうしなってしまう。表面的な平和を維持しようとする政治の実態もさることながら、戦争においては人間は敵味方の区別なく醜悪な存在となるという苦い真実。それが読後、ずしりと心にのしかかってくる佳篇である。