ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Eva Stachniak の “The Winter Palace” (2)

 昨日も書いたように、この本はたしか今年の2月ごろにはアマゾン・カナダでベストセラーになっていた。知らない作家の知らない作品だったが、表紙が印象的だったので例によって「見てくれ買い」。以来、ずっと積ん読中だった。
 いま検索すると、英米アマゾンでは中ヒットくらいの売れ行きのようだ。なぜカナダでだけ人気が高いのだろうとフシギに思って調べたところ、作者の Eva Stachniak はポーランド生まれでトロント在住とのこと。つまり、ご当地作家というわけである。
 開巻しばらくして、これは Philippa Gregory の小説のロシア版かな、と想像した。あちらは恥ずかしながら未読。長らく積ん読しているうちに日本でも人気を博したようで、今さら後追いしてもねえ、と相変わらず手が伸びない。ともあれ、本書は宮廷歴史小説である。Philippa Gregory とはまだ縁がないが、Hilary Mantel の "Wolf Hall" なら読んだことがある。さて、あの秀作と較べてどうでしょうか。
 …と期待をふくらませたのだが、先週に続いて今度の見てくれ買いも結局、外れ。「波瀾万丈であるはずの歴史劇が生ぬるいホームドラマになってしまっている」のが失望の最たる原因だ。
 宮廷歴史小説といえば単純な連想だが、ぼくの頭にはまず『三銃士』が思いうかぶ。具体的には、恋と友情、勇敢な主人公と悪者の決闘、暗闘などが描かれたもので、そういう冒険小説の要素にくわえ、さらに文学的な深みがあれば申し分ない。"Wolf Hall" のところで書いた拙文を引用しよう。「著名な人物を主人公にすえた歴史小説の場合、マクロな視点とミクロな視点を巧妙に配しながら、その人物に関する最も本質的な問題をすぐれたフィクションの形で追求する、というのがぼくのゴヒイキ。マクロな視点とは、主人公を取り巻く政治や社会情勢、さらには国際情勢などの見方、簡単に言えば歴史観であり、ミクロな視点とは、家族や友人恋人などが登場する私生活の捉え方を指す」。 
 で、"Wolf Hall" のほうは若干の不満こそあるものの、マクロ、ミクロどちらの点から言っても間違いなく力作である。ところが、この "The Winter Palace" では「対プロシア戦争など国際情勢の紹介がおざなりで、大きな歴史の流れが見えてこない」。ここでまずガックリくる。…長くなったので、ミクロのほうはまた次回。