ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Clark Blaise の “The Meagre Tarmac” (1)

 昨年のギラー賞1次候補作、Clark Blaise の "The Meagre Tarmac" をやっと読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

The Meagre Tarmac

The Meagre Tarmac

[☆☆☆★★] 文化とはある民族の生き方である、と述べたのはT・S・エリオットだが、この短編集の主人公たち、アメリカやカナダのインド系移民の人生は、各個人の人生であると同時に、彼ら「民族の生き方」を体現したものでもある。ミクロの視点に民族文化、さらには現代史における民族の宿命というマクロの視点が重なり、すこぶる濃密な小説世界がここにはひらけている。幼年期をインドで過ごし、英米の大学で学んだあと、彼の地で経済的に成功し、社会的地位を固めながらも西欧文化には溶けこめず、財産をめぐる骨肉の争いや自身の結婚問題などを通じて、よかれあしかれ祖国に回帰せざるをえない世代の移民たち。ふとした事件をきっかけにインド時代の記憶がよみがえり、インドとパキスタンの分離独立をはじめとする激動の歴史を俯瞰しながら、自分の人生とは何だったのか、これからどう生きるのか、と考える。心の傷、深い悲しみ、後悔などが行間に圧縮され、それが各人の人生だけでなく、「民族の生き方」をも象徴した瞬間となる。それが鮮やかに決まった短編ほどすばらしい。英語は内容に即したすこぶる緊密な文体で、語彙的にもやや難易度は高い。