ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Song of Achilles” 雑感

 今年のオレンジ賞受賞作、Madeline Miller の "The Song of Achilles" に取りかかった。諸般の事情で積ん読中に受賞の知らせ。あちらで評判がいいのは知っていたけれど(アマゾンUKでは今現在、レビュー数64で星4つ半)、え、そんなによかったの、と驚いた。「諸般の事情」の中には、タイトルからしアキレウスが主人公の歴史小説らしいけど、それならどうせ大したことはないだろう、という偏見もあったからだ。
 アキレウスといえば、ご存じ『イリアス』の中心人物の一人である。小学生のころ、ギリシャ神話ともどもジュニア版で読んだだけ、という情けない体験しかないぼくでも、『イリアス』『オデュッセイア』が世界文学史の最初に出てくる名作(らしい)ということくらいは知っている。どんなにがんばっても、ホメロスの向こうを張るなんてすごい芸当ができるわけはないだろう。
 ぼくは最近、大変遅まきながらガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』を観たばかりなのだが、開幕、これが従来のホームズものの映画やTVドラマと異なり、派手なアクション・シーンが多いことに驚いた。それより何より、原作にあった謎解きのおもしろさがほとんどない。何だこりゃ、と最初は思ったのだが、しばらく観ているうちに考えを改めた。今までどおりのホームズものならヒットするわけがないし、これはこれでいいのかな。原作とはまた違った味でおもしろい。
 だからこの "The Song of Achilles" も偏見を捨て、「これはこれで…」となることを期待して読みはじめたのだが…。
 上に書いた事情で「原作とはまた違った…」とは判断できないものの、たしかにクイクイ読める。その意味ではおもしろい。それから、アキレウス自身ではなく、親友パトロクロスを主人公にすえている点が本書のかなめだろう。これをどう評価するか。
 …などと知ったかぶりで書いてはいけません。パトロクロスなんて初耳でした。が、気になったのでネットで調べてみると、アキレウスの「竹馬の友」だったんだとか。ただしもちろん両者は主従の関係。あくまでも中心はアキレウスのほうにある。
 そこでふと思った。ぼくと同じでアキレウスなら誰でも知っているが、パトロクロスのほうは知らない読者が多いにちがいない。この両者の関係を逆転させ、パトロクロスの目からながめながらアキレウスを描いたところに本書の新味があり、これがもし秀作なら成功の秘密があるのではないか。少なくとも、「原作とは違うが、これはこれでおもしろい」と言える要因かもしれない。
 …じつはもう、ぼくなりに評価が定まりつつあるのだが、今日はこれくらいにしておこう。