ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Madeline Miller の “The Song of Achilles” (1)

 今年のオレンジ賞受賞作、Madeline Miller の "The Song of Achilles" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

The Song of Achilles

The Song of Achilles

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[☆☆☆★★] ギリシア神話の英雄アキレウスの生涯を、盟友パトロクロスの立場から描いた歴史小説。全体の流れと個々のエピソードは、神話と『イリアス』にほぼ準じている。が原典と大きく異なるのは、アキレウスパトロクロスの同性愛関係説を全面的に採用した結果、神とひとの子アキレウスの人間的な側面が強調されている点である。作者のねらいも、ひとつにはそこにあったのではないか。トロイア戦争開始までのふたりの甘美な関係の描写は可もなく不可もなし、といったところ。秀逸なのは、女捕虜ブリセイスの扱いをめぐって両者が対立するくだりで、火花が散るような緊張感に充ち満ちている。以後パトロクロスの死までおおいに快調で、戦闘シーンもけっこう楽しめる。が、そのあと駆け足で進むように筆づかいが荒くなり尻すぼみ。おわってみれば『イリアス』余話といえそうな内容だが、壮大な叙事詩のことは忘れ、全篇を通じてアキレウスをひたすら思うパトロクロスの切なる愛を味読したいものだ。