ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Madeleine Thien の “Do Not Say We Have Nothing” (2)

 いまイギリス各社のオッズを調べると、本書は今年のブッカー賞レースで、Deborah Levy の "Hot Milk" と本命・対抗を争うほどの人気を集めているようだ。
 でもこれ、シンドイ本ですよ。ぼくはそれほど乗れなかった。ただでさえ宮仕えで忙しいのに、このところ慶弔事が重なり疲労困憊。おまけに急な冷え込みで風邪を引いてしまい、などという諸般の事情がなかったとしても、ううむ、どうかな。やっぱりクイクイとは読めなかったんじゃないでしょうか。
 まず文化大革命が焦点のとき、ぼくは英語で読んだ同系列の小説、Dostoevsky の "Demons" や George Orwell の "Animal Farm"、"Nineteen Eighty-Four" などを思い出し、「正義から圧政、殺人にいたる過程」を描いたものとしては、舞台が中国に変わっただけで二番煎じ、という印象をぬぐえなかった。とりわけ Dostoevsky の予見と洞察は、歴史をはるかに先取りしたものであるだけに今なお意義深いが、本書は歴史小説ゆえに当然のことながら、歴史のあと追いである。好みの問題かもしれないが、ぼくには先取りのほうがずっとおもしろい。
 Orwell の作品が旧ソ連における全体主義をモチーフにしていることは今さら言うまでもないが、彼の場合、歴史小説ではなく、寓話やSFのスタイルを採用したことが功を奏している。そのほうが事実だけでなく観念の世界に踏み込みやすいからだ。これは全体主義を扱うのに都合がいい。全体主義とは、観念による殺人を引き起こすものだからである。
 などなど、とりとめもないことを考えながら本書を読んでいると、「大変な力作」には違いないけれど、どうもイマイチだな、シンドイなあ、と思ったのでした。
 それから、これはヤバイ本です。と書いたところで眠くなってきた。きょうはお通夜帰りで疲れている。おしまい。
(写真は、宇和島市東禅寺