ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Yaa Gyasi の “Transcendent Kingdom”(2)

 Yaa Gyasi の作品は初読かと思ったら、5年前の夏、処女作の "Homegoing"(2016)を読んでいた。   いま振り返ると、当時はちょうどブッカー賞ロングリスト発表の直前ということで、現地ファンのあいだで入選を有力視されていた同書に興味をおぼえたようだ。レビューから察するに、出来はなかなかよかったはずだが(☆☆☆★★★)、期待に反してあえなく落選。表題作は Gyasi の第2作である。
 これもやはり、今年のブッカー賞レースでは有力な「ロングリスト候補作」と目されていたが(入選した "Klara and the Sun" についで2番人気)、周知のとおり今回も選外だった。
 が、ぼくが本書に手を伸ばした理由はブッカー賞とは無関係。今年の女性小説賞最終候補作で、現地ファンのあいだでは2番人気だったからである(現在は1番)。読んだのはなんと5月末。ブッカー賞関連でも取りざたされるようになったのは、もっとあとのことだ。 

 こまかい内容については、レビューとメモを読み返しているうちにだんだん思い出してきた程度だが、とてもいい作品だ、という読後の感想だけは鮮明におぼえている(☆☆☆★★★)。「これほど自己の内部へ深く沈潜しながら人間存在の問題へと発展した作品は、移民文学にとどまらず現代文学全体としても、そうざらにあるものではない」とホメたとおりである。
 それだけにこんどのブッカー賞ロングリスト落選は残念。No one is talking about this book. とクサしたいくらいの凡作 "No One Is Talking about This"(2021)のほうが入選するとは、まことにケッタイな話である(☆☆★★★)。が、むろん美点もある作品のことだ。いつかも書いたように「文学の守備範囲は非常に広」く、その美点が高く評価されたのだろうと思いたい。 

 とはいえ、一過性の政治色が濃すぎる同書はやはり、ぼくにとってはいちばん苦手なタイプ。これにたいし、"Transcendent Kingdom" のほうは一時的な現実ではなく、「人間とはなにか、という問いが全篇に流れている」点で、永遠の真理にふれようとしている。不満は若干のこるものの、その努力を大いに買いたい。願わくは今年の女性小説賞を受賞し、ブッカー賞レースの雪辱をみごと果たしてもらいたいものである。

(写真は、愛媛県宇和島市和霊神社。再アップ。今夏も帰省できなかった)

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