ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

J. M. Coetzee の “The Schooldays of Jesus” (2)

 前々回にも書いたとおり、本書は「英米とも8月刊行というのに、7月発表のロングリストに堂々と載っている。いったいどうなってるねん?という不満の声が、あちらのファンのあいだからたくさん上がったものだ」。この情報は、ぼくのアンテナに登録している The Mookse and the Gripes を覗けば確認できるはずだ。
 以前にもゲラ刷りの段階で候補作が選ばれたものと思われる例はいくつもあり、ぼく自身はべつに驚かなかった。が、驚いたのは、どうやら Coetzee 自身、かなり早いうちにロングリスト入りを知っていたフシがあることだ。これはネットを検索するうちに分かったことで、まあネット情報というのは眉唾もの、と割り切ったほうがいいくらいだから、真偽のほどは定かではない。
 何だかくだらない話ばかりしているようだが、ぼくがこの件にこだわるのは、上の不満の中に、Coetzee は特別扱いされているのか、という趣旨のものがあったからだ。なにしろノーベル賞作家であり、ブッカー賞も過去に2度受賞の「大作家」である。優遇措置を受けるようなことがあるのかも、と勘ぐられたわけだ。
 選考委員たちがいち早く校正刷りを入手し、ほかの作品とくらべた結果、いや比較しなくてもこれは優秀作と判断。その結果、ロングリスト入りを果たしたのなら何も問題はない。その時点で作者に一報が入っても「情報漏洩」とは言えないだろう。
 が、本書はそれほどすぐれた作品なのだろうか。「トルストイの『幼年時代』との落差に愕然としてしまった」とぼくは昨日のレビューに書いたが、それだけではない。もし草葉の陰でトルストイが本書を読んだとしたら、怒り心頭、投げ出してしまったのではないか、とさえ思った。
(写真は、宇和島市泰平橋からながめた神田(じんでん)川)