ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Evelyn Waugh の “Sword of Honour”(2)

 やっと(2)にこぎ着けた。ほんとうはもっと早く落ち穂拾いをするつもりだったのだけど、このところ、本書をダラダラ読んでいるうちに届いた新刊を片づけるのに追われてしまった。(本書のレビューにスターを付けてくださった kt-888さん、brownsugaさん、遅ればせながら、ありがとうございます)。

 とはいえ、ケガの功名もある。はからずも現代文学との比較ができたからだ。といっても、べつに大したことではない。最近の小説はどれも、それなりに面白いのだけれど、この『名誉の剣』三部作とくらべると、どれもかなり物足りない。去年のブッカー賞受賞作や候補作についても、それどころか、ここ数年の作品についてもおそらく同様だろう。
 数年? 気になったので読書記録を検索したところ、ぼくがほぼリアルタイムで読んだ現代文学で、最高点の☆☆☆☆★★を進呈した作品は二冊だけであることが判明した。Irene Nemirovsky の "Suite Francaise"(原作2004、英訳2006)と、Roberto Bolano の "2666"(原作2004、英訳2008)である。 

 

 "2666" を読んだのが2009年のちょうど今ごろだから(同書は2008年の全米批評家協会賞受賞作で、今ごろはまだ候補作)、この十年間、古典や旧作を除くと最高点は皆無。われながら驚いてしまった。さほどにあちらの現代文学は不毛なのだろうか。まあきっと、それほどぼくの趣味が海外文学の主流からかけ離れているってことなんでしょうね。

 話を『名誉の剣』に戻そう。『新潮世界文学辞典』によると、「第二次大戦後最高のイギリス小説という評価もある」とのこと。誰の評価か知りませんが、わが意を得たり! ぼくも昂奮のあまり、「世界文学史上にのこる傑作」などと筆が滑ってしまった(キーを打ちそこねた?)。
 だけど、イーヴリン・ウォー、ぼくの学生時代も話題にする人は、周囲にはほとんどいませんでしたね。当時はたしか20世紀文学といえば、D・H・ロレンスグレアム・グリーン、フォークナー、ヘミングウェイあたりのファンが多く、ミステリばかり読んでいたぼくは、もっとまじめなものを読め、と亡き某先生によく叱られたものだ。そのたびに、ケッ、純文学なんて、と心の中で反抗しつつ、じつはやっぱり肩身が狭かった。
 そんなコンプレックスから、21世紀になってようやく文学の勉強を(自己流で)開始。イーヴリン・ウォーもその一環だった。ここで、レビューのないものは急遽採点、読書メモで代用しながら、読んだ順に振り返ってみよう。
"A Handful of Dust"(1934 ☆☆☆☆★)「現代人の虚妄と滑稽」。 

A Handful of Dust (Penguin Modern Classics) (English Edition)

A Handful of Dust (Penguin Modern Classics) (English Edition)

 

 "The Loved One"(1948 ☆☆☆☆)「ブラック・ユーモアたっぷり」。 

The Loved One: An Anglo-American Tragedy (Twentieth Century Classics)

The Loved One: An Anglo-American Tragedy (Twentieth Century Classics)

 

 "Brideshead Revisited"(1945 ☆☆☆☆★)「貴族の没落と青春のおわり」。 

"The Ordeal of Gilbert Pinfold"(1957 ☆☆☆☆)「作家の幻聴記」。 

The Ordeal of Gilbert Pinfold: A Conversation Piece (Penguin Modern Classics) (English Edition)
 

 "Decline and Fall"(1928 ☆☆☆☆) 

"Sword of Honour"(1965 ☆☆☆☆★★) 

 本書が刊行された当時、ブッカー賞はまだ創設されていなかった。その年の作品にどんなものがあるか知らないが、もし設立されていたら、これは間違いなくブッちぎりで受賞していたことでしょうね。そう、この「ブッちぎり」という受賞作が少なくとも今世紀は、ことによると創設以来、皆無かもしれない。もしそうだとしたら、なぜかな。

 そのあたり、ぼくには、ある飛躍に満ちた推論があるのだけれど、それを述べると草葉の陰から、いい加減なことを言うな、という某先生のお叱りの声が飛んできそうだ。
 そうそう、いま思い出したが、またべつの亡き某先生が、イーヴリン・ウォーのことをチラっとお話になっていた。へえ、"Decline and Fall" を読んだのかい、どうだった、くらいのことだったけれど。今回のぼくのレビュー、おふたりの先生が読まれたら、どう思われたことだろう。だからお前はダメなんだ、と最初の先生ならおっしゃりそうですね。(この項つづく)