ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Salman Rushdie の “Midnight's Children”(2)

 これはもちろん〈恥ずかしながら未読シリーズ〉。そんなシリーズでも開始しなければ、あまりにも〈いまさら感〉の強い作品なので、ずっと積ん読のままだったことだろう。
 前回(1)のレビューを読み返してみたが、案の定、つまらないことしか書いていない。というか、読みの甘さを露呈したものだと思う。が、老後の生活となると、生き恥の上塗りのようなものだ。仕方ありませんな。
 さらに恥をしのんで、いくつか補足しておこう。まず、これは世評どおりの傑作です。ただ、その世評が具体的にどんなものかは知らない。だから、ありきたりのことかもしれないけれど、ぼくが最も高く評価するのは、本書が「まさにインドそのものと言える作品である」点だ。
 インドでもどこでもいいが、ある小説がひとつの国全体をモチーフとして、その表現にかなり成功している例は少ないかもしれない。本書におけるマジックリアリズムも、メタフィクション的な叙述形式も、すべてそういう国民作家としての成功を導いた道具ではないでしょうか。
 反面、期待が大きすぎたせいか、え、こんなものなの、という印象も若干受けた。退職後、この3ヵ月ほどのあいだに☆☆☆☆★(約85点)を進呈した作品は、本書もふくめて4冊。その中では、コンマ以下の差で最下位でした。
 最高は Amos Oz の "A Tale of Love and Darkness"。僅差で Dave Eggers の "What Is the What" が続き、第3位は W. G. Sebald の "Austerlitz"。簡単に言うと、その順番で読後の感動が大きかった。つまり、"Midnight's Children" が4冊の中では感動がいちばん薄かった。だからレビューも、あっさりして、つまらない。
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 その「感動」って何なの、という声が聞こえてきそうですね。ううむ、それを説明するのは無責任な言い方だが、かなりむずかしい。知的昂奮というか、人生の発見ないし再確認というか、そんな意味での「感動」。それをぼくは、ほかの3冊ほど、"Midnight's Children" からは得られなかった、ということです。
(写真は、愛媛県宇和島市・旧市立病院。亡父が最初の脳梗塞で倒れたときに入院。いまは新築され、この風景は記憶の中にしかない)