ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ben Fountain の “Billy Lynn's Long Halftime Walk” (2)

 既報のとおり、残念ながら全米図書賞を逃してしまった本書だが、未読の方は2つの点に気をつけるといいでしょう。まず、帰国子女でもないかぎり、ぼくのようなふつうのサラリーマン洋書ファンだと、たぶん1週間くらいかかると思う。それも電車やバスの中だけでなく、〈スタバ〉や家でもある程度、腰をすえて読む覚悟が必要だ。語彙的にかなりタフな作品です。
 次に、これはもっと本質的な問題だが、読む側の政治的立場によっては頭にくる内容かもしれない。たまたまきょう、あるアメリカ人と話をする機会があったのだが、彼はオバマ大統領の再選を "Very bad news! He's a communist, Marxist!" とかなり憤慨していた。そんな彼には本書はとても薦められない。「膠着状態におちいったイラク戦争を背景に、戦争の大義の虚妄と、大義を信じたがる軽佻浮薄な一般国民、その偽善と大衆ヒステリーを痛烈に諷刺した反戦小説」だからだ。政治と宗教の話題は、相手を選ばないと大変なことになる。
 ぼく自身はどうかと言うと、なにしろ東洋の島国で平和ボケしているので、あの戦争の大義が実際「虚妄」だったのかどうか、アメリカ人の大半がほんとうに「軽佻浮薄」であり「大衆ヒステリー」に駆られていたのかどうか、正直言ってよくわからない。ひところ、ブッシュはバカだ、という声もよく聞いたが、ぼくはそんな声を聞くたびに、人をバカと言うからには、自分はもっと利口だぞ、という自信がないといけないけれど、ぼくにはそんな自信はないな、と思っていた。だから、「〈正義病〉にかかったアメリカ人の幼児性も諷刺の対象となっている」とレビューに書いたのも、要するに作者の立場に即しただけのこと。彼らの実態について何か判断できるほどの知識は持ちあわせていない。
 そんな政治音痴ゆえ、上のような諷刺を読んでも、政治面でずばり的を射たものなのかどうかはわからないし、べつに共感も憤慨もしなかった。ただし、劇的効果という点では、非常にすぐれた諷刺だと思う。また、小説全体としてもみごとな構成だし、「ビリーとチアリーダーのお熱いシーン」など、サービス満点で大いによろしい。「すさまじいパワー全開の文体に圧倒され」ることも間違いない。
 というわけで☆4つを進呈したのだが、「いささか気になる点もある」。そしてそれは「本書の根幹にかかわる」問題点でもある。……ああ、ここまで書いただけで頭がモーローとしてきた。明日は土曜日だが出勤。もう寝ます。