ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2012年全米図書賞発表 (2012 National Book Award Winner)

 先週、林家たい平の落語を聞きに行ったら、いま公開中の映画では『のぼうの城』がいちばんおもしろい、と話していたので、きょう、かみさんと一緒に観に行った。現代風の軽いセリフが気になったが、一種の戯作的効果をねらってのことだろう。けっこう楽しめたので、☆☆☆★★くらいでしょうか。
 帰宅後、今年の全米図書賞がどうなったか検索してみたら、あれま、Louise Erdrich の "The Round House" が小説部門で栄冠に輝いているではないか。ぼく自身は、この賞にしては珍しく発表前に最終候補作を4冊も読み、そのうち、きのう読みおえたばかりの Ben Fountain の "Billy Lynn's Long Halftime Walk" が「大本命」と思っていただけに、意外な結果である。そういえば、去年も大ハズレでしたな。
 同書の敗因は、レビューに書いた「気になる点」にあるのか、それとも、権威主義的な傾向がなきにしもあらずの賞だけに、反戦小説ということが災いしたのか……まさか、そんなわけはないでしょう。ぼくが思い当たる理由は「気になる点」しかない。
 ともあれ、Louise Erdrich は好きな作家のひとりなので、今回の受賞はうれしいニュース。以下、レビューを再録しておこう。ミステリ仕立ての青春小説という色彩が濃い作品なので、すでに版権を取得している出版社もあることでしょう。

The Round House: A Novel

The Round House: A Novel

[☆☆☆★★★] コアにあるのは少年の通過儀礼だが、20世紀末に近い当時、ネイティブ・アメリカンが法律的にしいられていた差別の現実を踏まえたものだけに、通常の青春小説とは異なる重みがある。舞台はノースダコタ州の田舎町。居留地に住む少年ジョーの美しい母親が何者かにレイプされ、開巻からいきなり息づまるような緊張の連続だ。やがてジョーは友人たちともども事件の解明に乗りだし、さながら少年探偵団のようで楽しい。傷ついた母親をめぐる重苦しさと少年たちのドタバタぶり、ジョーの少年らしい正義感と、巨乳の叔母に示す性的関心といったコントラストがじつに絶妙。祖父が眠りながら物語る部族の伝説や、先住民の伝統的な生活風景、マジックリアリズム的な逸話も混じり、重層的な作品に仕上がっている。家族の愛、少年たちの友情、人間同士の信頼をそれぞれモチーフにしたエピソードが複雑にからみあっていくうちに、やがて厳然たる差別の現実が示され、ジョーは驚くべき通過儀礼の行動に走る。これが最大の山なのだが、その後、恋愛がからんで定番の青春小説らしくなりボルテージが下がったのが残念。英語は語彙的にはむずかしめだが緊密な美しい文章である。(11月4日)