ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“A Hologram for the King” 雑感

 Dave Eggers の "A Hologram for the King" を読んでいる。昨年の全米図書賞最終候補作で、ニューヨーク・タイムズ紙や、パブリシャーズ・ウィークリー誌、アメリカおよびカナダのアマゾンなどの年間ベスト、Michiko Kakutani の Favorite Books にも選ばれている。さらにまた、毎年恒例の PPrize. Com による予想では、今年のピューリッツァー賞「候補作」にもノミネート。
 というわけで、間違いなく去年の超話題作のひとつだが、恥ずかしながら Eggers の作品を読むのはこれが初めてだ。じつは、2006年の全米批評家協会賞最終候補作、"What Is the What" を前からずっと読みたかったのだが、いろいろな新刊書を追いかけているうちについ後回しになっていた。そこへこの "A Hologram for the King" の登場である。つい最近、ペイパーバック版が出たので飛びついた。
 そんな評判と期待どおり、これはかなりいい! 一言でいえば、カフカの現代版、それもコミカルな現代版だろうか。
 主人公は、Alan というボストン在住の経営コンサルタント。昔は羽振りがよかったものの、近年は失敗続きでいまや自己破産寸前。が、サウジアラビア国王の甥と面識がある点を買われ、アメリカのIT会社の代表として、ビッグプロジェクトの売り込みに出かける。建設中の大都市、King Abdullah Economic City で、ホログラムによる会議システムを採用してもらおうというのだ。
 Alan はさっそく当地でプレゼンを始めようとするが、待てど暮らせど国王は姿を現わさない。窓口係の男ともさっぱり連絡が取れない。プレゼンの会場はなんと大テントの中。WiFi のシグナルが弱すぎて機材が使えない。そもそも、ほかの会社の代表が一人もいないのはどうしたことか。大都市建設中といっても、ビルがいくつか建っている程度なのもおかしい。
 そんな不可思議な状況の中、Alan はビジネスの失敗や破綻した結婚生活など失意の人生をふりかえり、ますます落ちこんでいく。おまけに、首筋に大きなこぶができたのも気にかかる。もしかしたらガンかもしれない。そんな回想や心配が、フラッシュバックとしてプレゼンの話に織りまぜられる。'There had to be some reason Alan was here. Why he was in a tent a hundred miles from Jeddah, yes, but also why he was alive on Earth? Very often the meaning was obscured. Very often it required some digging. The meaning of his life was an elusive seam of water hundreds of feet below the surface, and he would periodically drop a bucket down the well, fill it, bring it up and drink from it. But this did not sustain him for long.' (p.59)
 つまり、Alan は実存の不安に駆られているのだ。これにコミカルなエピソードや爆笑物のジョークが混じる。そのジョークをきょうは紹介できないのが残念だ。