ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Dave Eggers の “A Hologram for the King” (1)

 Dave Eggers の "A Hologram for the King" を読了。昨年の全米図書賞最終候補作で、ニューヨーク・タイムズ紙や、パブリシャーズ・ウィークリー誌、アメリカおよびカナダのアマゾンの年間ベスト、Michiko Kakutani の Favorite Books にも選ばれている。さらにまた、毎年恒例の PPrize. Com による予想では、今年のピューリッツァー賞「候補作」にも擬せられている。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本書は2016年、トム・ティクヴァ監督によって映画化されました。主演はトム・ハンクス。日本でも2017年に公開され、邦題は『王様のためのホログラム』)。

[☆☆☆★★★] 「おれはだれだ」「わたしはなぜここにいるのか」― だれでも一度は駆られる疑問かもしれないが、本書はこの定番の問題をきわめて現代的、かつコミカルに扱った秀作である。昔は羽ぶりがよかったものの、いまや自己破産寸前の経営コンサルタント・アランが起死回生をかけ、サウジ国王にホログラムによる会議システムを採用してもらおうと、現地で建設中の大都市に乗りこむ。が、国王はいっこうに姿を見せず、プレゼンテーションも延期につぐ延期。そもそも都市建設そのものが進んでいない。このカフカ的状況が、こっけいなエピソードや爆笑もののジョークもまじえて描かれると同時に、アラン自身の失敗したビジネスや破綻した結婚生活、健康への不安、ひとり娘への思いなどがフラッシュバック。そこに孤独な現代人の実存の不安が浮かびあがる。この笑いとシリアスな問題の配合が絶妙で、ページをめくる手が止まらない。濡れ場もあって楽しんでいるうち、ふと流れてくる人生の悲哀にしんみり。虚無の深淵に頭をかかえこむ。人生は不条理で、かつ、おかしい。おかしいから不条理なのか、不条理だからおかしいのか。そんなラチもないことを考えてしまった。