ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Denis Johnson の “The Largesse of the Sea Maiden”(2)と2018年全米批評家協会賞最終候補作

 全米批評家協会賞の発表(ニューヨーク時間で3月14日午後6時30分)が目前に迫ってきた。日本時間の明日にでも結果が判明していることだろう。
 今年は久しぶりに発表前に最終候補作をぜんぶ読むつもりだったのだけれど、Luis Alberto Urrea のペイパーバック版 "The House of Broken Angels"(2018)の入手が遅れ断念。同書はまだ読み始めたばかりなので何とも言えないが、いまのところ、☆☆☆★★くらいかな。 (追記:その後読了。★をひとつオマケしました)。  あとの4冊は読んでいます。といっても、Anna Burns の "Milkman"(2018 ☆☆☆★★★)は、ご存じのとおり去年のブッカー賞受賞作だし、Rachel Kushner の "The Mars Room"(2018 ☆☆☆★)も同賞最終候補作。 

 

 だから今回、新たに読んだのは表題作(2018 ☆☆☆★)と、Patrick Chamoiseau の "Slave Old Man"(原作1997、英訳2018 ☆☆☆★)だけ。(両書のレビューにスターを付けてくださった brownsuga さん、ありがとうございます)。 

 

 まあ、順当なら "Milkman" のダブル受賞の可能性は高いと思うけど、同書は飛び抜けた傑作というわけでもない。さりとて、ほかの候補作もパッとしない。だから、読みかけの "The House of Broken Angels" が中盤から俄然、盛り上がることを期待している。あるいはいっそ、Denis Johnson に哀悼の意を表し、この遺作に栄冠を授けてもいいと思うのだが、どうでしょう。
 Denis Johnson といえば、未読だが "Jesus' Son"(1992)、それから2007年の全米図書賞受賞作 "Tree of Smoke" あたりが代表作だろう。 

Jesus' Son

Jesus' Son

 

 

Tree of Smoke

Tree of Smoke

 

 2012年のピューリッツァー賞最終候補作 "Train Dreams"(2011 ☆☆☆★)は読みました。もはや何となく憶えている程度だが、同点ながら、今回読んだ本書よりは出来がいいかもしれない。

 さてこの遺作となった短編集、「やはり巻頭の表題作がいちばんいい」。最後から2つ目のパラグラフはこうだ。I note that I've lived longer in the past, now, than I can expect to live in the future. I have more to remember than I have to look forward to. Memory fades, not much of the past stays, and I wouldn't mind forgetting a lot more of it.(p.40)
 ぼくもお迎えのことが頭にチラつくような齢になったので、この心境、よくわかります。ただ、こんなくだりが幕切れ寸前に出てくるってことは、この短編、たしかに読みおえた直後は佳作と思ったけれど、いま振り返ると I wouldn't mind forgetting a lot more of it. という気もしますね。