ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Dave Eggers の “What Is the What”(1)

 2006年の全米批評家協会賞最終候補作、Dave Eggers の "What Is the What"(2006)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

What is the What

What is the What

Amazon
[☆☆☆☆★] スーダンの内戦勃発により国外へ脱出した難民の自伝にもとづくノンフィクション・ノヴェル。人間が人間であるゆえんは「なにか」、としばし考えさせられる感動的な傑作である。その感動はまず現実の直視から生まれる。逃避行、難民キャンプおよび移住先アメリカでの生活を通じて描かれるのは、美醜や正邪善悪という矛盾をさらけ出して生きる人間のありのままの姿だ。一方に虐殺と略奪、欲望、嫉妬といった負の要素があり、また一方に愛情と同情、奉仕、自己犠牲といった正の要素がある。同じひとりの人間の心中にエゴイズムと愛他心がひそんでいる。そうした二律背反のドラマに息をのみ、泣き、また笑いもする。人間とはなんと愚劣で、なんと崇高な存在なのか。この認識はまた、絶望と同時に希望を意味している。弱音を吐きつつも、けっして望みは捨てない。その決意に胸を打たれるのである。事件の配列や叙述形式といった小説的な工夫も感動の演出に奏功している。主人公のスーダン人青年がアトランタの自宅で強盗に手足を縛られながら犯人に語りかけ、少年時代の悲惨な体験を物語る冒頭からして悲喜劇そのものだ。以後、未開の地の血なまぐさい現実と、甘い幻想を打ち砕かれた文明国のこっけいな現実がみごとに対比されカットバック。ドキュメンタリー・タッチで、またユーモラスな筆致で自在に描きわけられるうち、ふたつの世界に共通する「なにか」が鮮やかに浮かびあがる。その「なにか」が「矛盾をさらけ出して生きる」という人間の本質なのである。