ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Black Swan Green” 雑感

 注文している新刊がまだ届かないので、場つなぎに旧作探訪。David Mitchell の "Black Swan Green" をボチボチ読んでいる。
 ほんとうは、Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler" を読みおえたばかりなので、同書に Mitchell が inspire されて書いたという "Cloud Atlas" に取りかかったほうがいいのだが、なにしろ分厚い本で、けっこう時間がかかりそうだ……という理由で昔から積ん読中。今回もパラパラやっただけで気が乗らず、"Black Swan Green" のほうを先に片づけることにした。
 ご存じのように、これは2006年のブッカー賞一次候補作である。また、翌年にはアレックス賞にも選ばれた話題作だが、ぼくはそのころ、ようやく本格的に現代文学に傾斜しはじめたばかりで、ブッカー賞といえば、まだ最終候補作しか追いかけていなかった。
 その後、一次候補作にも手を出すようになり出会ったのが、2010年の "The Thousand Autumns of Jacob de Zoet" [☆☆☆☆★]。恥ずかしながら、ぼくはそこで初めてDavid Mitchell の実力を知った。それまでは "Cloud Atlas" もふくめ、せいぜいかじり読みした程度だった。
 さてこの "Black Swan Green" だが、アレックス賞受賞作だけあって少年が主人公。いかにも青春小説らしいおもむきで、いままでのところ、かなりおもしろい。コミカルな場面が多いのは定番の流れだが、当意即妙の受け答えをはじめ、知的で切れ味鋭い文体のおかげもあって、どのエピソードもツボにはまったものとなっている。
 が、正直言って、まだ期待したほどではない。"The Thousand ...." でぼくは、「おのれの信念を貫きとおす人間の見事さ、自己犠牲の美しさに理屈ぬきに感動を覚え」ただけに、あちらとくらべると少々分がわるい。でも、意外な展開となりそうな気もする。楽しみだ。