ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Mitchell の “The Bone Clocks”(2)

 David Mitchell の手持ちの旧作はこれでやっとぜんぶ読了。足かけ10年で6冊読んだことになる。まことにお恥ずかしいペースだが、ここで記念にその6冊を刊行順に並べておこう。
1."Number9Dream"(2001 ☆☆☆☆) 

2."Cloud Atlas"(2004 ☆☆☆☆★) 

3."Black Swan Green"(2006 ☆☆☆★★) 

4."The Thousand Autumns of Jacob de Zoet"(2010 ☆☆☆☆★) 

5."The Bone Clocks"(2014 ☆☆☆★★★) 

6."Slade House"(2015 ☆☆☆★★★) 

 もちろんどれも面白かったが、もし1冊だけ読み返すとしたら、最近読んだばかりで印象が強いせいか、意外にも "Number9Dream" かもしれない。意外にも、とは、もっと評価の高い作品を差し置いて、という意味である。
 なぜ「差し置く」のかというと、分量的に、また内容的にもしんどいからだ。それにひきかえ、"Number9Dream" はさほど長くないし、本筋以外の〈つなぎ〉のエピソードが本筋とは別個に面白く、いい意味で〈遊び〉がある。主人公 Eiji Miyake が泊まっていたカプセルホテルに猫やゴキブリが出没する一件などが好例だ。
 その点、今回読んだ "The Bone Clocks" にはそれほど遊びがない。というか、あるにはあるのだが、あまり面白くない(特に第二部以降)。それを我慢して読んでいると、突然、「ミステリアスな事件や緊迫した場面に思わず引き込まれる」のが救いである。
 それから、あまりにミステリアスで、たぶん何かの伏線なんだろうなと思って読み流すしかない話がよくあった。それとカブるが、本筋に関係しそうな固有名詞が説明ぬきに頻出するのにも閉口した。むろん、最初からネタを割ると白けてしまうが、ボカしすぎるのもよくない。要するに、「時空を超えた壮大なファンタジー」が見えてくるまで、時間がかかりすぎる。
 などなど、ぼくの好みには合わない点も多々あったけれど、「霊魂不滅、輪廻転生」が時間をかけないとよく伝わらないテーマであることも事実。たぶん、上のような不満が出ることを Mitchell は百も承知のうえで構成をじっくり練ったのだろう。とはいえ、好みだけで言うなら、近年のものでは "Slade House" のほうがスッキリしていて楽しかった。
 Mitchell の作品でぼくがまだ読んでいないのは、処女作の "Ghostwritten"(1999)、第8作の "From Me Flows What You Call Time"(2016)、および最新作の "Utopia Avenue"(2020)。タイトルから推測するかぎり、どれもひょっとしたら、"Jacob de Zoet" のように人間の生き方にかかわる問題を正面から扱ったものではないかもしれない。Mitchell はゴヒイキ作家のひとりだけど、当分手を伸ばすことはなさそうだ。

(下は、上の記事を書きながら聴いていたCD) 

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番&第5番「皇帝」