ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Graham Swift の “Mothering Sunday” (2)

 Graham Swift の小説を手にしたのはずいぶん久しぶりだ。読書記録を調べると、ちょうど10年前に読んだ "The Light of Day" (2003) 以来である。
 そのあいだに Swift がどんな作品を書いてきたかは知らない。が、彼の名前はぼくの頭にずっと残っていた。ご存じ "Waterland" (1983) と1996年のブッカー賞受賞作 "Last Orders" の作者だからだ。
 ただし両書とも、読んだのはレビューらしきものを書き始める前のことで、中身はすっかり忘れてしまった。読書記録には粗筋らしき一口メモが添えてあり、前者については「異形の兄が愛したのは弟の恋人」、後者は「友人の散骨と、残された人々の人生」。が、それを読んでもさっぱり記憶がよみがえってこない。
 とはいうものの、とりわけ "Waterland" が非常におもしろかったことだけは憶えている。無責任な評価だが、たぶん☆☆☆☆は堅いんじゃないかな。だから今回、お、Graham Swift か、これは楽しみだぞ、と思って取りかかった。
 いまアマゾンUKを検索すると、レビュー数50で星4つ。ホンマかいな。
 へそ曲がりのぼくの感想はレビューに尽きている。下敷きにした結びの一節を引用しておこう。以下、「彼女」とはヒロインのことだ。'Telling stories, telling tales. Always the implication that you were trading in lies. But for her it would always be the task of getting to the quick, the heart, the nub, the pith: the trade of truth-telling. ..... And any writer worth her salt would lead them [readers] on, tease them, lead up the garden path. .... It was about being true to the very stuff of life, it was about trying to capture, though you never could, the very feel of being alive. It was about finding a language. And it was about being true to the fact, the one thing only followed from the other, that many things in life ― oh so many more than we think ― can never be explained at all.'(p.132)
 ひとつだけ補足すると、読者に何を訴えたいのか意味不明のメタフィクションよりはましである。裏表紙の紹介によると、Graham Swift は67歳らしい。衰えたのかな。ともあれ、"The Light of Day" の昔のレビューを再録しておこう。

The Light of Day

The Light of Day

[☆☆☆★★] 私立探偵が主人公なのにミステリではない文学作品。こんな例は他に、オースターの『幽霊たち』くらいだろうか。いや、チャンドラーやロス・マクがいるぞ、とミステリ・ファンからは叱られそうだが、ハードボイルドはまた別のおもむきのジャンルだと理解している。本書に話題を戻すと、主人公の探偵は元警官。二年前、ある婦人に夫の素行監視を依頼され、それがどうやら、探偵自身にとっても衝撃的な事件につながったらしい。その事件の全貌が少しずつ明らかにされる過程は、通常のミステリとは別の意味でサスペンスがあって非常に面白い。同時に、その婦人と探偵の関係も次第に明示され、主人公が警察を退職したいきさつや、別れた妻の思い出なども紹介される。つまり、形式的にはハードボイルド小説とほぼ同じパターンなのだが、それでも本書はミステリとは言えない。ここでは、探偵がどんな事件を捜査したかではなく、それをきっかけにどんな人生を歩みだしたかという点に主眼が置かれているからだ。事件の概要、探偵と婦人の関係が見えてきたところで、あとは同じ話の繰り返しという印象を受けるのが気になるが、それは評者が意外な結末を期待したせいかもしれない。微妙なニュアンスをもった省略表現の多い英語だが、今まで接したグレアム・スウィフトの作品の中では、いちばん読みやすいものだった。
(写真は、宇和島市光國寺前にある光國橋から眺めた神田(じんでん)川)