ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Rohinton Mistry の “A Fine Balance”(3)

 本書について、もう1回だけ駄文を書いておこう。Dina Dalal seldom indulged in looking back at her life with regret or bitterness, or questioning why things had turned out the way they had, cheating her of the bright future everyone had predicted for her when she was in school, when her name was still Dina Shroff. And if she did sink into one of these rare moods, she quickly swam out of it. What was the point of repeating the story over and over and over, she asked herself ― it always ended the same way; whichever corridor she took, she wound up in the same room.(p.15)
 人生、なるようにしかならない。いやはや、これ、ほんとにホントですな。なにしろ、ぼくは去る3月で定年退職。いまは無職で悠々自適の毎日である。
 と言いたいところだが、意外に雑用が多く、まだ1日のペースがつかめない。老後の実感も湧かないまま上のくだりを読んだときは、思わず活字に見入ってしまいましたね。これもやはり、(2)で引用した You have to maintain a fine balance between hope and despair.(p.231)ということでしょう。
 出来ばえとしては、「呆れるばかりの力業」だけなら☆☆☆★★★。去年のブッカー賞受賞作、"Lincoln in the Bardo" とだいたい同じですね。
 そのつもりでレビューを書き出したのだけれど、そのうち「バルザック的な人間観察」にも言及しないといけないことに気がつき、★をひとつおまけして☆☆☆☆。いいほうの中くらいってところかな。
 本書は1996年のブッカー賞最終候補作。この年の受賞作は Graham Swift の "Last Orders" だが、Excel に打ち込んでいる読書記録によると、ぼくが読んだのは2004年。そのころはまだレビューを書いておらず、「友人の散骨と、残された人々の人生」というメモしか残っていない。それでも何となく心にしみた覚えがある。たぶん、順当な結果でしょう。
 既読のほかの最終候補作は、Beryl Bainbridge の "Every Man for Himself"(☆☆☆★)だけ。いま書棚を見わたしたところ、Shena MacCkay の "The Orchard on Fire" を発見したけれど、これは当分まだ積ん読のままでしょう。
(写真は、愛媛県西予市ジオパーク須崎海岸。2週間前に訪れたときは強風で吹き飛ばされそうになり、ブレた写真を撮るのが精一杯だった)