ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Graham Swift の “Mothering Sunday” (1)

 Graham Swift の最新作、"Mothering Sunday" を読了。あちらのファンのあいだでは、今年のブッカー賞の有資格候補作と目されている。わりと好評のようだ。

Mothering Sunday

Mothering Sunday

[☆☆☆★] おもしろい叙述形式だ。主人公の娘が後年、作家となり発表した作品のタイトルを借りれば、「心の目で」ほとんどすべてが語られる。舞台は第一次大戦の傷がまだ癒えぬイギリスの田舎町。メイドとして働く娘が他家の御曹司と秘密の関係にあり、母の日に休暇をもらって逢瀬を楽しむ。その娘の想像や推測、仮定、自問などと、第三者的な視点による想像や解説を中心に話が進み、ときおり実際の事件や会話が挿入される。つまり、ヒロインと作家自身が織りなす心象風景の中に現実が紛れ込む。この現実とフィクションの融合が本書の最大の特色である。また、上の作品はセクシュアルなものだそうだが、本書も前半はセクシュアル。のちに小説の題材となる事件を小説化した作品という意味でも、これは一種のメタフィクションである。そのねらいは終盤の解説によれば、フィクションの中にふくまれる真実を見極め、言語を通じてものごとの本質や核心に迫り、言葉では表わせぬ世界まで踏み込むのが作家の仕事である、ということらしい。まさに正論だが、実際にここで起こった事件は真相解明に値しない他愛もないものだ。「牛刀をもって鶏を割く」とは、こういうことを言うのだろう。
(写真は、宇和島市光國寺にある油屋熊八の墓(一番左)。油屋は明治大正時代の実業家で、別府温泉の観光開発に尽力したことで知られる)