ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Donal Ryan の “From a Low and Quiet Sea”(1)

 アイルランドの作家 Donal Ryan の新作 "From a Low and Quiet Sea"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

From a Low and Quiet Sea: A Novel

From a Low and Quiet Sea: A Novel

[☆☆☆★★] 心に深い傷を負った人々の人生行路、とりわけ出会いと別れ、対立と和解を描いた輪舞形式の長編。終幕ですべてのピースがかみ合うものの、それまで全体像はまったく見えてこない。各話とも場面の途中から始まり、それがようやくひとつの絵柄となったところで次の話。その絵柄と絵柄がなかなか結びつかない。とはいえ、随所に突然不安と緊張の高まる山場があり、思わず引き込まれる。騒乱の絶えないシリアから医師が妻子を連れて決死の脱出。アイルランドの田舎町で青年の運転する老人ホームの送迎バスが突然故障。同じくアイルランドの街で中年男が愛人のボーイフレンドと対決。医師も青年も中年男も、彼らと深くかかわる人々もみんなそれぞれ、何らかのかたちで愛に傷ついている。その屈折した心理を反映したかのような静かな海辺のひとときが、たまらなく切ない。一方、傷心を隠した陽気で下品なジョークは傑作。こうした一見つながりのないピースがみごとに組み合って終幕へとなだれ込む。構成の妙が光る佳編である。