ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Donal Ryan の “From a Low and Quiet Sea”(2)

 昼のニュース番組を見ていたら、西日本豪雨による被害は人災だ、と某政治ジャーナリストが力説していた。治水をふくむ事業仕分けのことかと思ったが、さにあらず。もっと早く厳戒態勢を敷いていたらあれほどの被害は出なかった、という話だった。
 ぼくの郷里、愛媛県でも大変な被害が出ている。家族や親戚、友人たちに電話して安否を確認したものだが、その中でこんな話を聞いた。大雨警報の発令中、大洲市内の映画館に映画を見に行き、見終わって外に出たところ、肱川が氾濫して車が流されていた、というのだ。
 警報は知っていたが、まさかこれほどの大雨になるとは、という話は、所有するミカン畑が崩落した吉田町の友人からも聞いた。さほどに愛媛県人はのんびりしている、ということかもしれないが、他県のことはいざ知らず、郷里の人の話を聞けば聞くほど、上の政治ジャーナリストの主張は机上の空論としか思えてならない、
 閑話休題ブッカー賞の季節が始まっている。ロングリストの発表(ロンドン時間で今月24日)を間近にひかえ、現地ファンは例年どおり予想談義でヒートアップ。純文学の賞で一次候補作の発表前から盛り上がるとは、わが国では考えられない状況だ。さすがシェイクスピアの国ですな、とこれまた毎年思う。
 ぼくもじつは5月ごろから現地の下馬評をチェックしていた。いくつか気になる作品があり、作家名だけ挙げると、Aminatta Forna、Michael Ondaatje、Richard Powers、Donal Ryan、Tim Winton といったところ。ほんとうはぜんぶ注文したかったのだが、もはや年金生活の身なので、財布のひもをゆるめるわけには行かない。未読の作家のみ読んでみることにした。
 ところが、届いた2冊を見てビックリ。Powers は間違いなく未読だとわかっていたが、Ryan のほうはなんと、"The Spinning Heart"(2012 ☆☆☆★)という作品を読んでいたではないか。
bingokid.hatenablog.com
 そのレビューを読み返しているうちに、なんとなく記憶がよみがえってきた。5年前、2013年のいまごろ、やはり現地ファンの予想を頼りに同書を読み、それがロングリストに入選していたのだ。ほんとにボケてますな。
 というわけで、まったく当てにならない感想になるが、Donal Ryan、ずいぶん腕を上げましたね。★ひとつの差だが、この "From a Low and Quiet Sea" のほうが格段にいい。
 最初、「騒乱の絶えないシリアから医師が妻子を連れて決死の脱出」から始まったので、たまたま本書の前に読んだ Kamila Shamsie の "Home Fire" と同じく、移民かテロの話かと思ったら一転、「アイルランドの田舎町で青年の運転する老人ホームの送迎バスが突然故障」。ついで、「同じくアイルランドの街で中年男が愛人のボーイフレンドと対決」。
 それがいったいどう結びつくのだろう。まったく先が読めませんでした。
 当然、ネタは割れない。「心に深い傷を負った人々の人生行路、とりわけ出会いと別れ、対立と和解を描いた」物語としか言いようがないが、ぼくとしては、タイトルどおり low and quiet sea の場面で終わってほしかったですね。
(写真は愛媛県大洲城。手前を流れるのが肱川。6年前の春、JRの車内から撮影)