きのう、イタリアの作家 Antonio Tabucchi(1943 - 2012)の "Pereira Maintains"(原作1994, 英訳1995)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★★] 1930年代、ポルトガルの独裁者サラザール体制のもと、言論統制に抵抗した良心的ジャーナリストの葛藤と勇気ある行動を描いた秀作である。舞台は隣国スペインで内戦が激化していた当時のリスボン。一流紙のヴェテラン記者だったペレイラは第一線を退き、いまでは夕刊紙の文化欄を担当。妻に先立たれ、健康に不安をかかえるペレイラは死について考えはじめ、内外の著名作家の没後記念特集を組み、また生前から死亡記事を用意しておくことを思いつく。その執筆者として、大学の哲学科を卒業したばかりの青年に白羽の矢をたてたのだが…。「リスボン、そしてヨーロッパ中に死臭が立ちこめ」、「世界中にファシストが満ちあふれている」状況をよそに、ペレイラは愛する文学と自分の生活に専念し、安全なノンポリ路線をつらぬこうとするものの、ついに良心の声に耳をふさぐことはできなかった。編集長や医師、司祭、さてはウェイター、ビルの管理人など市井の人びととペレイラとのやりとりから上の状況がしだいに浮上。あわせてペレイラの微妙にゆれ動く心理が描かれ、「ペレイラいわく」とのフレーズの多用により、リアルな実況中継、および公式声明ふうの効果を上げている。終幕のポリティカル・スリラーはサスペンスフル。全体主義が再台頭した21世紀の現代必読の一冊である。