ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Mitchell の “Cloud Atlas”(2)

 こんどの大雨でぼくの郷里、愛媛県宇和島市も大変なことになっている。テレビでしばしば報道されている土砂崩れが起きたのは吉田町白浦。ニュースを知って驚き、同町立間でミカン農家を営んでいる友人に電話したところ、さいわい友人は無事。しかし立間でも道路が寸断され、まだ畑の様子を見に行ける状態ではないという。が、おそらく今年の収穫は無理。いままで記憶にある大雨の倍以上の大雨だったとのこと。
 そんなときにのんびり小説を読んだりブログを書いたりしていいのか、という気がするが、立間ではまだ水道が復旧していないそうなので、いつ届くかわからないが、とりあえず友人に水を送るように手配した。
 さて本題。じつは "Cloud Atlas"、去る3月で定年退職したぼくにとって、海外現代文学の中では "Midnight's Children"、それから "My Name Is Red" と並んで、いちばん気になる恥ずかしながら未読本のひとつだった。この3冊を老後最初の3ヵ月で片づけたことで当面の目標達成。正直言ってホッとしている。
 "Cloud Atlas" は2004年のブッカー賞最終候補作だが、ぼくが同賞をリアルタイムで追いかけはじめたのは2006年から。2000年の夏ごろはまだ、「ブッカー賞? 何それ?」という程度の海外文学ファンだった。
 2004年の受賞作は Alan Hollinghurst の "The Line of Beauty"(☆☆☆)。ぼくは後年読んであまり感心せず、それより先に読んでいた最終候補作、Colm Toibin の "The Master"(☆☆☆☆★)のほうがずっと心にしみた。ほかの候補作は未読だが、この年は同書か "Cloud Atlas" のどちらかが栄冠に輝くべきだったと思う。
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 それにしても、David Mitchell はほんとうにすごい才能の持ち主ですな。読むたびに「鬼才のイマジネーションには、ただもう呆れるばかり」。といっても、ぼくは上のとおり〈遅れてきた老人〉なので、これでやっと4冊め。
 いままで読んだ中では、"The Thousand Autumns of Jacob De Zoet"(2010 ☆☆☆☆★)にノックアウトされたものだ。「おのれの信念を貫きとおす人間の見事さ、自己犠牲の美しさに理屈ぬきに感動を覚える」点では "Cloud Atlas" の上を行くだろう。
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 こんな小説、よくまあ書けるものだな、と恐れ入ったのはやはり "Cloud Atlas" だが、"De Zoet" のレビューを読み返して気がついたことがある。「息づまるようなサスペンスに満ちた冒険小説、現代のカルト教団を思わせる一派を描いた伝奇小説、すさまじい砲撃シーンが圧巻の戦争小説など、中盤あたりから次々と畳みかけるようないろいろな物語的要素に圧倒される」。
 つまり、Mitchell はどんなジャンルでもこなせる作家だということだ。とりわけ、その昔ミステリ・ファンだったぼくは、"Cloud Atlas" の冒険スリラー篇に超ゴキゲン。依頼があれば、サラサラさらっと傑作スパイ小説でも書いてくれるんじゃないでしょうか。
(写真は、愛媛県宇和島市の神田(じんでん)川。4年前の夏、台風通過直後に撮影。きょう YouTube を見たら、ここが恐ろしいほど増水していた)