ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Bernardine Evaristo の “Girl, Woman, Other”(1)

 ゆうべ今年のブッカー賞最終候補作、Bernardine Evaristo の "Girl, Woman, Other"(2019)を読了。現地ファンのあいだでは、ショートリストの発表時からずっと1番人気。ひょっとすると、このままゴールインするかもしれない勢いだ。さっそくレビューを書いておこう。 

Girl, Woman, Other: A Novel (English Edition)

Girl, Woman, Other: A Novel (English Edition)

 

[☆☆☆★★★] ロンドンの国立劇場で、レズビアンのアマゾネスを描いた劇が上演され、脚本・監督は黒人女性アーマ。そんなセンセーショナルな場面ではじまる本書は当初、過激なフェミニズムLGBT擁護、反レイシズムといった政治路線を走るのかと思いきや、やがてアーマとかかわりのある多数の若い娘、年配の女、ほかにも男たちがつぎつぎに登場。もっぱら女性の立場でフェミニズムやレズ、性転換の問題について議論百出。批判的な人物でも説得力のある意見を述べるなど、バランスのとれた柔軟な思考が読みとれる作品である。アフリカ系移民の問題についても、20世紀初頭から21世紀の現代にいたる差別と偏見の歴史を検証しつつ、黒人自身、白人社会に順応、時には迎合さえしようとする一面もあったことを指摘。これは反体制派にも体制志向がある点への着目と軌を一にしている。が、こうした政治や社会の問題は、本書においては基本的に主役たちが自己を実現し、他者と結びつくうえで、障害と同時に契機ともなるものだ。困難な状況であればあるほど、ひとは傷つきながらも自分のあるべき姿を模索し、他人への、他人からの愛情や友情を確認しようとする。つまり本書の眼目はアイデンティティと人間愛の追求にあり、そのテーマにぴったりの題材がアフリカ系移民であり、女性であり、LGBTであるということなのだ。あるひとりの内面を掘りさげつつ、数多くの他人から見た当人の人物像も示され、極端な立場も「バランスのとれた柔軟な思考」で中和される。時にコミカルで滋味豊かなユーモアにあふれ、リフレインを多用、リズミカルで生き生きとした女性群像の描写は特筆もの。「男よりはるかに複雑」な生きものである女にとって人生ははるかに複雑。〈女もつらいよ〉と嘆きつつ、「草の根行動主義」により、女性が真の人間としての地位を確立しようとする姿から、EU離脱移民問題などで揺れる今日の〈病めるイギリス〉も同時に浮かびあがってくる。女もすごいよ、と脱帽したくなる力作である。