ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Honorée Fanonne Jeffers の “The Love Songs of W.E.B. Du Bois”(1)

 きのうやっと、昨年の全米批評家協会賞受賞作、Honorée Fanonne Jeffers(1967 - )の "The Love Songs of W.E.B. Du Bois"(2021)を読了。頂上が見えたところでひと息ついたら、結果的に大休止。数日前、やおら重い腰をあげてふたたび登りはじめたが、えらくしんどかった。やはり一気に読むべきだった。
 Wiki によれば、W.E.B. Du Bois(1868 - 1963)はアフリカ系アメリカ人として初めて博士号を取得した著名な社会学者で、生涯にわたって人種差別と闘いつづけ、黒人の地位向上のため、さまざまな改革運動に取り組んだとのこと。本書にも折りにふれて著書からの引用がある。Honorée Fanonne Jeffers 自身もアフリカ系で、本書は彼女のデビュー作。はて、どんなレビューになりますやら。

The Love Songs of W.E.B. Du Bois

[☆☆☆★★★] アメリカにおける奴隷制と、南北戦争による「解放」後も、今日にいたるまで根づよくのこる人種差別の問題を扱った小説といえば、いまやおおむね想定内。悲惨な現実を描いたもの、とか、人間の尊厳にかかわるもの、などとあっさり片づけられるリスクがある。本書もそのハードルを大きく越えているわけではないが、定型を定型と感じさせない斬新な工夫がほどこされ、じつに読みがいのある秀作に仕上がっている。とりわけ中盤すぎまで、アフリカ系の若い娘エイリーがヒロインの現代篇では、差別ないし差別意識はいわば刺身のツマ。クラスメイトやボーイフレンドとのからみあいがコミカルで、かつ緊張感もあり、それだけならふつうの青春小説、学園ドラマとなるところ、文字どおり肌感覚としての人種問題がいり混じり、ぴりっと紙面を引き締めている。母や姉、親類縁者とのやりとりも同じで、平凡な家庭小説、メロドラマの題材でも白人と黒人の対峙ゆえにカラフルでおもしろい。一方、19世紀中葉ジョージア州の農園が舞台の過去篇は正統的な「奴隷小説」。先住民の迫害もまじえた点が目新しい程度だが、なにしろ上の現代篇とのコントラストが鮮やかで、刺身そのものは定番でもじゅうぶん活きがいい。それが独立した物語かと思いきや、終盤、エイリーが一家のルーツをさぐるうち、昔の奴隷たちが手紙や写真などを通じて彼女の祖先と判明。この過去と現在の融合も常套的だが自然な流れ。反面、重苦しさがつのる憾みもあるが、むべなるかな。著者の「あとがき」によれば、これは「黒人のフェミニスト小説」である。たしかに現代篇、過去篇を合わせると、精神的にも肉体的にも不当に虐げられてきた黒人女性たちの、哀しくもたくましく生きる姿が如実に浮かびあがってくる。「定型を定型と感じさせない」巨篇である。