ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Bernardine Evaristo の “Girl, Woman, Other”(2)

 今週は絶不調。熱はまあ下がったものの、投薬を続けているせいか倦怠感があり、血圧もやや高い。大ごとでなければいいのだけど、亡父が最初の脳梗塞で倒れた年齢に近づきつつあるのが気になる。
 いまボチボチ読んでいるのは、スイスの作家 Pascal Mercier の世界的なベストセラー "Night Train to Lisbon"(原作2004、英訳2008)。長らく積ん読中だったが、ここらへんでひとつ、と思い切って取りかかった。
 冒頭は文句なしに☆☆☆☆。ベルンのギムナジウムで教鞭をとる Gregorius が通勤途中、橋の上から飛び降りそうに見えたポルトガルの女性と出会う。なんだか今年のブッカー賞最終候補作、Chigozie Obioma の "An Orchestra of Minorities"(☆☆☆★★★)と同じような設定だ。
 そのまま Gregorius と女のあいだにロマンスが芽生えるのかと思いきや、さにあらず。彼はそのあと学校を抜け出し、古本屋で見かけたポルトガル語の本の内容に惹かれ、授業を放棄。衝動的にリスボン行きを決め、著者 Amadeu de Prado の消息を探ることにする。
 以後、Prado の記述をときおり挿みながら、彼の妹や友人、恩師などを Gregorius が訪ね歩く記録が続くことになり、上の女性との後日談はいまのところ皆無。Gregorius は Prado の人物像と同時に、自分自身のありようについても思索を深めている。そのあたり、☆☆☆★★に★をひとつ追加すべきかどうか、といったところ。でもベストセラーなんだから、これからきっと面白くなるのだろう。
 表題作に戻ろう。本書のブッカー賞受賞はすこぶる順当だと思う(☆☆☆★★★)。 

 同時に受賞した Margaret Atwood の "The Testaments"(☆☆☆★★)より優れているし、今年のピューリツァー賞最終候補作、Rebecca Makkai の "The Great Believers"(☆☆☆)よりはるかに上出来だ。あちらも同じくLGBT問題を扱った作品だったが、一種のプロパガンダ小説と言えなくもないほど一方的な主張が目だち、その是非はともかく、小説としてのふくらみに欠けるのが難点。ひるがえって、本書は「バランスのとれた柔軟な思考が読み取れる作品となっている」。それが「小説としてのふくらみ」を増しているのは間違いない。
 そして作者がバランスをとりながらたどり着いた結論はこうかもしれない。.... we should celebrate that many more women are reconfiguring feminism and that grassroots activism is spreading like wildfire and millions of women are waking up to the possibility of taking ownership of our world as fully-entitled human beings(p.438)
 ぼくはこれを読んで、へえ、そうなんだ、とは思ったものの、鈍感なオトコの頭で考えるせいかイマイチ、ピンとこない。life's so much simpler for men, simply because women are so much more complicated than them(p.423)と述べる女性も顔を出し、もちろんこれは作者自身の意見ではないはずだけど、ぼくはやはり「へえ、そうなんだ」という感想しか持てなかった。
 と、そんなところが気になったくらいで、あとは十分楽しめた。feminism については、少なくとも小説の題材としてはもっと書きたいこともあるが、なにしろ上のとおり体調不良につき、こんな駄文を綴っただけでもう頭が痛くなってきた。早く寝よう。
(写真は、モン・サン=ミシェルの敷地内にあった大砲。今年の夏に撮影)

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