ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Peter Carey の “Oscar and Lucinda”(1)

 1988年のブッカー賞受賞作、Peter Carey の "Oscar and Lucinda" を読了。本書は2008年、ブッカー賞設立40周年を記念して企画された the Best of the Booker Prize の最終候補作でもある。さっそくレビューを書いておこう。 

Oscar and Lucinda (Vintage International)

Oscar and Lucinda (Vintage International)

  • 作者:Carey, Peter
  • 発売日: 1997/11/11
  • メディア: ペーパーバック
 

[☆☆☆☆★] 男がいて、女がいる。ふたりはどう結ばれるのか。骨子としてはそれだけの話かと思ったら、終幕で鮮やかなどんでん返し。これにはアッと驚いた。が、途中の展開ももちろんすばらしい。19世紀中葉、イギリス生まれの青年牧師オスカーがオーストラリア行きの旅客船で、シドニーのガラス工場の女経営者ルシンダと出会う。このすこぶる単純な設定から、それ以前も以後も起伏に富んだ重厚で濃密な歴史小説がつむぎ出される。抱腹絶倒もののドタバタ劇あり、ハートウォーミングな逸話あり、壮絶な対決あり、さまざまなドラマが楽しめるが、これすべて、主役はもとより脇役たちの人生観と性格から必然的に生じたもの。各人物の出し入れが巧妙で、脇役からしっかり固めていくうちに、主役ふたりの人生行路が大きく左右される。オスカーの水恐怖症、ふたりの賭博癖と勘ちがいに笑わされるうちに予想外の結末を迎えるところは、性格喜劇であり性格悲劇ともいえる。そのどんでん返しに、「人生は恐ろしい偶然と必然の結果」という真実を見てとることもできよう。そうした運命の赤い糸がオーストラリアの移民、開拓、布教の歴史を織りなす点、これはまさしく国民文学の傑作である。