ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Peter Carey の “Oscar and Lucinda”(3)

 今年のブッカー賞ショートリストは、現地ファンにとって大波乱だったようだ。ちょっと拾っただけでも、こんな悲痛な叫び声が上がっている。'What a mess - this year's booker shortlist is a complete disaster.' 'Wow - I'm in absolute shock.' 'This shortlist, OMG!'
 とりわけ、Hilary Mantel と Colum McCann の落選がとてもショックだったらしい。が、ぼくは今年の Mantel はそれほど高く評価していなかったし、McCann もあちらのレビューから、じつは読むだけ損という気がしていたので、べつに驚かなかった。
 ともあれ、とりあえず人気上位3作だけ注文したところだけど("Shuggie Bain", "Burnt Sugar", "The Shadow King")、面白いことに、なにかのミスで、"Real Life" が受賞という記事(?)がブッカー賞財団のウェブサイトに載っていたらしい(未確認)。ミスにしても前代未聞。いったい賞レースはどうなるんだろう。これ、穴馬くらいにはなるのかな。
 閑話休題。Peter Carey も前から気になっていた作家のひとりだ。が、いままでの彼の印象はあまりよくなかった。まず、まだ同賞の受賞作だけ後追いしていたころに読んだのが、"True History of the Kelly Gang"(2001)。力作だとは思ったけれど、それほど深い感銘は受けなかった(☆☆☆★★)。(レビューなし)。
 つぎに読んだのが、2010年の同賞最終候補作 "Parrot and Olivier in America"。これもイマイチだった(☆☆☆★)。 

 当時はレビューを大手通販サイトに投稿していたのだが(その後削除)、それを読んだらしい有名な某氏が某サイトで、「多くの人が高く評価しているのだから、きっとすぐれた作品なのだろう」と反論。ま、文学にはいろいろな立場があっていいけれど、まったく反論になっていないのは明らかですな。
 10年前の話だが、ここでぼくの立場を説明しておこう。同書の主な舞台は19世紀前半のアメリカ。主人公のひとりは「動乱のつづくフランスを逃れて渡米した青年貴族」。とくれば、いやがおうでもトクヴィルを思い出さずにはいられない。 

アメリカの民主政治』(1835, 1849)が不朽の名著であることは周知のとおりだが、同時代にアメリカの状況を観察したトクヴィルの卓見に対し、"Parrot and Olivier in America" はなにか付け加えるものがあるのだろうか。
 さらに、この時代のアメリカでは、ホーソーン(1804 - 1864)、メルヴィル(1819 - 1891)、エマスン(1803 - 1882)、ソーロウ(1817 - 1862)たちが活躍していたことを考えると、彼らの著作との比較ぬきに論評することは不可能である。つまり、Peter Carey は彼らからも学びえないような要素をなにか指摘しているのだろうか。
 そんな興味からぼくは同書を読んだ結果、「作者の富や自由をめぐる歴史観はあまりに教科書的」と判断。物語としてはけっこう面白かったけれど、どうも底が浅い。そこでへそ曲がりの評価となったわけである。
 ひるがえって、"Oscar and Lucinda" はダンゼン面白かった!(この項つづく)