ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Peter Carey の “Oscar and Lucinda”(2)

 いよいよブッカー賞ショートリストの発表が迫ってきた(ロンドン時間15日)。何度も書いたが、ぼくは "The Mirror & the Light"(☆☆☆★★)を読んだだけで、ほかの候補作は未読。なにしろ、だれがどう見ても今年最大の興味は、Hilary Mantel が Wolf Hall Trilogy で3作連続、史上初3度目の受賞なるかだろう。
 が、現地ファンのあいだではもっか、同書はどうも3番人気くらい。ほかの有力候補作は人気順に、"Apeirogon"(Colum McCann)、"Shuggie Bain"(Douglas Stuart)、"Love and Other Thought Experiments"(Sophie Ward)、"Burnt Sugar"(Avni Doshi)、"The Shadow King"(Maaza Mengiste)となっている。不勉強につき、McCann 以外は初耳。
 ともあれ、ぼくはいままで高みの見物。おなじブッカー賞でも、今夏は過去の受賞作や候補作をいくつか catch up していた。ここでちょっと振り返ってみよう。
 まず、いちばん面白かったのは "Number9Dream"(☆☆☆☆)。と書いただけで、読んでいる最中、読後の昂奮がよみがえってくる。半沢直樹より面白い!
半沢直樹といえば、「お・し・ま・い Death!」に代表される顔芸が話題になっているが、あれよりぼくは、最近何本か観たベルイマン映画に出てくる顔芸のほうに圧倒された。『叫びとささやき』の赤い溶暗の顔芸にもびっくりしたけど、極めつけは『魔術師』。白黒の画面いっぱいにアップされた顔に、動きはほとんどないのに、役者たちの演じる人物の人生や性格、心理がみごとに映しだされている。ベルイマン・ショットのひとつだろう。下の BOX に『叫びとささやき』と『魔術師』所収)。 

 ほかに読んだ3作には表題作もふくめ、国民文学という共通項がある。"The Famished Road"(☆☆☆☆)はナイジェリア、"Such a Long Journey"(☆☆☆★★)はインド、そして "Oscar and Lucinda"(☆☆☆☆★)はオーストラリアの、それぞれ歴史や文化などを色濃く反映している。こうした作品群を読むと、どうしても彼我の差を感じずにはいられない。べつに大きいことはいいことだとは言わないけれど、日本の現代文学には、少なくともぼくが読んだものには、小さな個人的領域にとどまっている作品が多いような気がする。その領域から、世界の読者に通じるなにかを訴えているものが英訳に値するのかもしれない。(この項つづく)