ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Damon Galgut の “The Promise”(1)

 きのう、今年のブッカー賞一次候補作、Damon Galgut の "The Promise"(2021)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

The Promise

The Promise

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[☆☆☆★★★] 国家間の条約はやぶるためにある、と俗にいわれるが、個人同士の場合はどうか。「約束は約束」とこだわるのが本書の主人公エイマーの立場だ。やぶるため、とはいわないまでも、やぶるもの、無視するもの、はぐらかすもの、というのが彼女の父親や兄姉である。約束をめぐるそんな家族の確執が南アフリカプレトリア郊外の農場を主な舞台に、今世紀の変わり目をはさんで約30年間、ほぼ10年間隔でつづく。途中で結末が読める点では単純なストーリーだが、それを補うかのように上の四人はもちろん、その配偶者や親族、恋人たち、さては端役にいたるまで交代で話者となり、文字どおり猫の目のように視点が変化。と同時にさまざまなエピソードも派生するなど、約束という単純な幹から複雑な枝葉が伸びる過程にしっかり工夫がほどこされている。そしてなにより、南ア現代史の流れを背景に、ひとつの約束が白人と黒人の「近くて、近くない」関係、「この国をひとつにまとめる奇妙で単純な融合」の象徴となっている点がみごと。家族からずっと孤立していたエイマーが最後、家族とその運命にしみじみと思いをはせて幕を閉じる。ファミリー・サーガの佳篇である。