ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Louise Erdrich の “The Night Watchman”(2)

 Louise Erdrich を初めて読んだのは、もう15年くらい昔のことだ。いま思い出すと、たしかそのころはジャケ買いにハマっていて、なにかの作品の関連本を検索しているうちに魅力的なカバーを見かけると、内容もたしかめず即買い。そんなふうにして出会ったのが "The Painted Drum"(2005 ☆☆☆★★★)。

「精霊が宿り、不思議な魔力があるといわれ」る魔法の太鼓がネイティヴ・インディアンの過去と現在、生と死を結ぶ役割を果たしている話で、マジックリアリズムのようなエピソードが随所にあり、「うっとりするような幕切れが読後いつまでも心に残る佳篇である」。
 珍しく処分せず書棚に陳列してあった本を手に取ると、Louise Erdrich は美人ですな。そういえば、美貌にふさわしい名文家、との評をどこかで読んだおぼえがある。Wiki によれば、Erdrich が初めて受賞した権威ある文学賞は American Academy of Poets Prize とのこと(1975)。"The Painted Drum" の幕切れなど、なるほど散文詩のようだ。
 つぎに読んだ Erdrich の作品は、2012年の全米図書賞受賞作 "The Round House"(☆☆☆★★★)。

 レビューを読み返してすぐに思い出したのだが、これはたしかに「開巻からいきなり息づまるような緊張の連続」でクイクイ読めたものだ。どうして☆☆☆☆を進呈しなかったのかな。どうやら「最大の山以後、いくぶんボルテージが下がった」ところが減点材料らしいけど怪しいものだ。
 初めて全米批評家協会賞に輝いた "Love Medicine"(1984)と、同賞二度目の受賞作 "Larose"(2016)は未読。
 以上、まことにお粗末な読書体験をへて取り組んだのが、ご存じ今年のピューリツァー賞受賞作、"The Night Watchman"(☆☆☆★★)。

 受賞歴からして、Louise Erdrich はいまや名実ともにアメリカ文学界の重鎮のひとりとなったわけである。そのことにけっして称賛を惜しむものではないが、ピューリツァー賞にかぎって言うなら、下馬評で2番人気だった James McBride の "Deacon King Kong" のほうがずっと面白かった(☆☆☆★★★)。

 一方、"The Night Watchman" は11番人気。つまり、受賞は多くのファンにとって番狂わせだったわけだが、Erdrich の旧作、たとえば上の "The Round House" と比較しても、やや落ちるのではないか。
 両書とも、主な舞台はノースダコタ州にあるネイティヴ・インディアンの居留地。20世紀中葉ないし後半、先住民がまだ法律的に差別をしいられていた時代の話である。
 大きく異なるのは、"The Round House" では人種差別を踏まえながら、青春小説、さらには「部族の伝説や、先住民の伝統的な生活風景、マジックリアリズムふうの逸話もいり混じり、重層的な作品に仕上がっている」。そのうえで驚くべき山場を迎えるのにたいし、"The Night Watchman" では、たしかに「居留地というコミュニティのさまざまな人生模様が織りなされる緊密な構成で、マジックリアリズムに接近したエピソードもあり楽しめる」ものの、重心はあくまで人種差別のほうにおかれている。それなのに、差別テーマの山場となるべき、善玉と悪玉の対決シーンが「意外に盛りあがらず減点」。簡単にいえば、インパクトの有無の差である。
 だから下馬評で泡沫候補だったのも無理はないと思う。ぼくがどこかの編集者だったら、版権を取得するかどうかの会議で没を主張しますね。
 ところが、フタをあけると栄冠に輝いたってことは、社会的弱者を描いた作品が高く評価されるという最近の(でもないか)アメリカ文学の趨勢を反映しているのでは、という気がしないでもない。考えすぎでしょうか。

(写真は、高知県四万十川の高樋沈下橋一青窈の「ハナミズキ」のビデオ撮影地として有名)

f:id:sakihidemi:20140816103616j:plain