ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Faulkner の “Flags in the Dust”(1)

 きのう、William Faulkner の "Flags in the Dust"(1929)を読了。以下のレビューは、「なにから読むか、フォークナー」にも転載しました。

[☆☆☆★★★] ミシシッピ州の架空の町ヨクナパトーファ郡ジェファーソンを舞台とする、ヨクナパトーファ・サーガの第一作『サートリス』の完全版。のちのサーガでもおなじみのサートリス家の人びとをめぐる物語を中心に、『サンクチュアリ』のホレスや、『館』のバイロンなどが主役のエピソードもちりばめられ、総じて短編集としても読める長編となっている。第一次大戦直後に復員したベイヤード・サートリスは、ふたごの兄ジョンの戦死に心を痛め、無謀運転をくりかえすなど自暴自棄におちいる。戦争のトラウマという定番のテーマの先駆けで、重大事件のもようを間接的に伝える手法が巧妙。ベイヤードと、彼の妻となる女性、ホレスの妹ナーシッサとのふれあいにおける、しみじみとした味わいも心に残る。一方、ベイヤードの祖父と、その友人、伯母、黒人の召使いたちとの活発なやりとりからは、富裕な旧家サートリス家の歴史を背景に南北戦争の影や、新旧両世代の対立、人種差別の現実などがコミカルな笑い話もまじえて浮かびあがる。また、ベイヤードと同じく復員したホレスが秘密の情事を重ねたり、ベイヤードの祖父が経営する銀行の行員バイロンがナーシッサにストーカー行為を働いたりと、サートリス家周辺の物語では鬱屈した男女の心理が、副筋とは思えないほど情感たっぷりに描かれる。やや荒削りで、まとまりに欠ける憾みもあるものの、百花繚乱、多彩なトピックが織りなすファミリー・サーガに圧倒される。フォークナー渾身の力作である。