ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Faulkner の “The Unvanquished”(1)

 きのう、William Faulkner の "The Unvanquished"(1938)を読了。ミシシッピ州の架空の町ヨクナパトーファ郡ジェファーソンを舞台とするヨクナパトーファ・サーガのひとつで、7つの連作短編をまとめた作品である。さっそくレビューを書いておこう。(「なにから読むか、フォークナー」に転載)。

[☆☆☆★★] ヨクナパトーファ・サーガ草創期の物語。南北戦争の戦中・戦後にわたる19世紀中葉、少年から青年へと成長していくベイヤードの視点から、父ジョンや祖母ローザ、いとこのドルシラなどをめぐるサートリス一家の年代記が綴られる。前半はローザが大活躍。勇気、プライド、知恵、頑固なまでに強靱な精神力など、敵に「征服されざる」資質を兼ねそなえた老女が北軍の将校相手に堂々と渡りあい、愉快な詐欺を働いたあげく凶弾に倒れる。その敬虔なキリスト教信者ぶりがユーモラス。同様に後半、ベイヤードが祖母の仇を討ち、ジョンとドルシラがふたりの結婚を「忘れて」まで悪党を倒す一件にしても、暴力とユーモアが渾然一体となった、どこかおかしな南部劇。ドルシラがベイヤードに思いを寄せ、ベイヤードが横死した父の仇と対決する第七話が全篇の白眉だろう。感情を抑え、信念と信義をつらぬく男たちの心意気こそ、女たちの勇気と愛ともども、「征服されざる精神」の根幹をなすものではないか、と思われるのである。