ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jonathan Escoffery の “If I Survive You”(1)

 今年のブッカー賞最終候補作、Jonathan Escoffery(1980 - )の "If I Survive You"(2022)を読了。Escoffery はジャマイカアメリカ人の作家で、デビュー作の本書は昨年の全米図書賞一次候補作でもあった。
 ブッカー賞候補作というからには長編と判断されたわけだが、前付には these stories とも this novel とも記載されている。じっさい、第二章 'Under the Ackee Tree' の初出はThe Paris Review 誌で、2020年に同誌主催の文学賞 Pimpton Prize を受賞。実質的には、それぞれの短編に同一人物が登場する連作短編集である。
 なお、以下のレビューは過去記事「2023年ブッカー賞発表とぼくのランキング」に転載するとともに、同記事も加筆訂正することにしました。

If I Survive You (English Edition)

[☆☆☆★★] 20世紀末から今世紀にかけて進む八つのストーリーのうち、本書と同名タイトルの最終話が抜群にいい。最初は少年だったジャマイカ系の混血青年トリローニが、マイアミの家の居住権をめぐって兄と骨肉の争い。これに幼いころ家族を見捨てた父、いまやイタリアに住む母、人種にこだわる恋人などが加わり、エゴとエゴの激突に圧倒される。トリローニが白人ペアの変態プレイにつきあわされ窮地におちいる寸劇も強烈。いずれもワサビのきいたユーモアたっぷりに活写され、テーマともども全篇のハイライトとなっている。いまだ根づよい差別問題、不安定なアイデンティティ、家族の愛憎、下層社会の厳しい現実など、各話で描かれてきたおなじみの題材が思い起こされ、人物と場所を変えて集約される。重苦しい雰囲気になりがちなところ、軽快なタッチでバランスをとり悲喜劇化。人情話をまじえたりサスペンスを盛りあげたり、新人作家らしからぬ芸達者ぶりが光る連作好短編集である。はたして熱い男トリローニは人生の危機を脱して生きのこれるのだろうか。