ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sophie Mackintosh の “The Water Cure”(2)

 ぼくはもう年金生活なので、ブッカー賞の候補作だからといって、昔のようにぜんぶまとめて注文するわけには行かない。とりあえず、気になる作品だけ手をつけることにした。
 この "The Water Cure" は、届いた本のカバーには載っていなかったが、ネットの商品表示には for fans of Hot Milk, The Girls and The Handmaid's Tale という副題らしきものが添えてあり、食指が動いた。
 Deborah Levy の "Hot Milk"(2016 ☆☆☆★★★)は2016年のブッカー賞最終候補作。どんな話か忘れていたが、当時書いたレビューを読み返してすぐに思い出した。「濃密な心象風景を、さまざまな思いの去来する一瞬の情景を楽しむ本である。それを絶妙かつ的確にとらえた繊細なタッチに読みほれてしまう」。
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 "The Handmaid's Tale"(1998)はご存じ Margaret Atwood のディストピア小説。レビューらしきものを書き始める前に読んだが、いまだに強烈な印象がのこっている。☆☆☆☆くらいでしょう。
 "The Girls" というのは、たぶん Lori Lansens の作品(2005)ですな。未読だが、書棚に飾ってあるのを発見。ジャケ買いだったような気がする。楽しみが減るといけないので、カバーの宣伝文句はスルーしました。
 さてこの "The Water Cure"、イギリスの作家 Sophie Mackintosh の長編デビュー作ということだが、いままで読んだ今年のブッカー賞候補作7冊のうち、ぼくの評価では最下位。率直に言って、どうしてこんな水準のものが選ばれたのかよくわからない。このあと "Everything Under" と "In Our Mad and Furious City" を読まなかったら、今年もイギリス馬は苦戦かと思っていたところだ。
 ディストピア小説としては、"The Handmaid's Tale" のほうがはるかに上。同書と違って、本書における「ディストピアの実態は曖昧模糊として恐怖を覚えるものではな」い。
 "Hot Milk" は若い女性が主人公という点で本書と関連づけられたのかもしれないが、共通点として思いつくのはそれくらい。We understood it would be difficult, hurtful, to recognize that the danger was in ourselves.(p.245)という文言をぼくは、「危険はむしろ人間自身の心の中にある」と強引にまとめたけれど、そんなわかりきったことを聞かされるより、「自分とは、自分の人生とは、愛とはいったい何なのだろう」とヒロインが迷いづづける話のほうが、ぼくは好きだ。
(写真は、愛媛県宇和島市佛海寺)