Ron Rash の "The World Made Straight" はいわゆるウェル・メイドな小説でけっこう面白かったのだけれど、不満も若干なくはない。
ひとつには、どうしても処女作の "One Foot in Eden" と較べてしまうからで、あちらの「クライマックスへとなだれこむ過程」のほうがはるかに凄まじかった。今回も「ハラハラさせられる」ことは間違いないが、迫力満点とまでは言えない。
また、激動の事件が終わったあとの余韻も "One Foot in Eden" のほうが胸を打つ。ダムの底に沈んだ村を水上から覗き見るエピローグは、過去と現在の絆をしみじみと思い起こさせて何とも言えなかった。それにひきかえ、"The World Made Straight" における少年の改心は、いささか取って付けたような感じがする。
ただし、元教師にして麻薬の売人に代表されるように、「陰影の濃い人物」の提示という点では、Ron Rash の小説技術は進化していると思う。ローカル色豊かな、ちょっとしたエピソードの挿入もうまく、いわば直球勝負の処女作にはこんな余裕はなかった。
テーマ的には、自暴自棄になったり正義感に燃えたりする少年の「青春の叫び」が本物であり、やはりアレックス賞受賞にふさわしい作品である。そればかりか、親代わりに面倒を見る元教師の過去が次第に明らかになり、しかも、その過去が南北戦争にまでさかのぼるという「重層的な構成」で、それが青春小説というジャンルを超えた重みを加えている。
が、ぼくの最大の不満は、じつはその「歴史問題」にある。しかし今日はもう時間がなくなった。この続きはまた後日。