ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ron Rash の "The World Made Straight"(1)

 昨夜、Ron Rash の "The World Made Straight" を読了。処女作 "One Foot in Eden" のレビューでぼくは、「近作は未読だが、さらに陰影に富んだ人物像の提示があることを期待したい」と書いたが、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071031/p1 その期待は充分に満たされたと言ってよい。

The World Made Straight

The World Made Straight

[☆☆☆★] 生意気盛りの少年が悲痛な体験を経て大人に成長するという典型的なイニシエイション物。しかし構成は重層的で、陰影に富んだ人物が織りなす物語は古いテーマを陳腐に感じさせない。重層的というのは背景に南北戦争時、北軍による虐殺の史実があることで、虐殺現場も舞台のひとつになっている。父親に反発して家を飛び出した少年が元教師のトレーラーハウスに転がりこみ、その指導のもと、ガールフレンドにも励まされながら猛勉強、高校の卒業資格を得るくだりは青春小説の定石。その元教師は今や麻薬の売人で、離婚して一人暮らし、別れた娘のことが忘れられない。それだけでも充分影のある人物なのに、少年とのあいだに前述の虐殺事件が絡んでいたことが分かるなど、定番的ストーリーを超えた複雑な設定になっている。少年が山の中でマリファナ畑を発見、思わぬ危険に遭遇し…という開幕からしてサスペンスフルで、すっと物語に引きこまれる一方、鱒釣りや射撃大会といったローカルな場面には心がなごむ。しかし何と言っても圧巻は、自暴自棄におちいった少年が暴走して大事件を引き起こす終盤だろう。少年を助けようとする元教師と悪党たちの対決は二転三転、最後までハラハラさせられる。南部方言や俗語の混じった会話を除けば、英語は標準的である。

 …07年のアレックス賞受賞作を読んだのは、これで5冊目だ。ぼくの好みで順位をつけると、次の2冊に続いて3番目の出来だと思う。
1."The Whistling Season" Ivan Doig

The Whistling Season

The Whistling Season


 詳細は http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071104/p1
2."Water for Elephants" Sara Gruen
Water for Elephants

Water for Elephants

 詳細は http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080128/p1
 あと2冊は Pamela Carter Joern の "The Floor of the Sky" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071111/p2 と、Diane Setterfield の "The Thirteenth Tale" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080502/p1 だが、ぼくにはどちらもイマイチだった。