ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joseph O'Neill の "Netherland"(2)

 本書を読みながら考えたことのひとつは、まず、純文学とは何か、という問題だ。何を今さら、と思われるような陳腐な問題だし、小説のジャンル分けなんぞ、どうでもいいと自分でも思いつつ、やはり気になった。
 というのは、これはストーリーとしては決して面白いとは言えないからだ。アマゾンUKの評価は星3つ半。レビューまで読んではいないけれど、物語性だけを基準にするなら、順当な評価だと思う。星3つでもいいくらいだ。
 一方、「ベスト10の季節」でも報告したように、ニューヨーク・タイムズ紙やガーディアン紙など、英米の各メディアの評価は非常に高いし、周知のごとく、本書はブッカー賞のロングリストにもノミネートされている。好評の理由については、面倒くさいので調べていない。
 米アマゾンの評価も星4つで意外に高い。これは何となく、主な舞台が9.11テロ事件前後のニューヨークということで、アメリカ人には馴染み深いせいではないか、という気がする。「雑感」でも述べたように、「テロの不安やイラク戦をめぐる論議など、異常な政治情勢が背景にある」ものの、本書は実質的に「政治とはほとんど無関係の物語」である。あの大惨事をアジテーションではなく、文学の題材として扱うことができるようになったという意味では、アメリカ人には感慨深いものがあるのかもしれない。
 では、その「文学」とは何か。ストーリー展開の面白さという意味での物語性ではない。技法的には、これも「雑感」でふれたように、ぼくが勝手に命名した「イメージ連想法」が使われている。「現在の人物や場所をきっかけに過去の回想が切れ目なく混じる技法」である。これにより、「思い出に心の傷が重なっている」様子がありありと伝わってくることは間違いなく、その表現過程はまさに「文学」と言えるだろう。が、本書における「文学性」とは、それだけではないような気がする。(続く)